2018 Fiscal Year Research-status Report
完新世の気候最適期における湖沼古水温の定量的復元法の開発
Project/Area Number |
18K03763
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
堂満 華子 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (70397206)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | セタシジミ / 成長線解析 / 酸素同位体比分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,琵琶湖固有種セタシジミの殻の成長線解析と酸素同位体比分析を組み合わせることにより,殻から水温などの環境情報を連続的に読み取ることをめざす.このため平成30年度は,1)成長線の観察方法,2)酸素同位体比分析用微量粉末試料の切削・回収方法,3)人工池での飼育方法,4)自然環境下の現生個体の採取方法を検討した. まず1)について,殻の成長線を観察,その後に殻から微量粉末試料を切削するため,殻を樹脂に包埋する実験をおこなった結果,P-レジンの使用で良好な包埋状態を得ることができた.また,樹脂に包埋した殻をその最大成長軸に沿って切断・研磨した結果,実体顕微鏡下にて殻にほぼ連続的な成長線を観察することができた.次に2)について,この包埋試料に対して研究協力者所有のマイクロミルと微量粉体回収装置を用いることで成長線に沿った微量粉末試料の切削と回収を高精度に実施できることを確認した.以上の1)と2)により,次年度以降,セタシジミの殻の成長線解析と酸素同位体比分析を実施するための試料の作製・観察方法を概ね確立することができた. セタシジミの殻の酸素同位体比と殻形成時の水温との関係式を求めるため,3)人工池での飼育方法を検討した.その結果,研究代表者所属機関にある人工池がセタシジミの飼育に必要な条件を有する可能性があることが判明した.そこで,この池でセタシジミを飼育するための飼育装置を製作し,池の中に設置した.また,飼育期間中の水質を記録するため,温度ロガーを設置したほか,成長量に強く関係すると予想される水の懸濁物質や懸濁炭素・懸濁窒素,クロロフィル等を測定するための検討・準備をおこなった.飼育に失敗することへの備えとして,4)自然環境下で生息するセタシジミとその生息場の水を定期的に採取するため,採取地点を彦根市松原沖琵琶湖沿岸に選定し,採取にはジョレンを用いることとした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成長線の観察方法の確立について,文献調査にもとづく樹脂の選定,樹脂の主剤に対する硬化剤と促進剤の割合,樹脂の完全硬化に要する時間等の比較実験,良好な観察面を得るための研磨方法の比較検討に,当初の予想よりも時間を要した.そのため,殻の微細成長縞を観察しやすくするためのエッチングと染色法の検討には至っていない.エッチングと染色法については次年度に検討をおこなうこととし,全体の計画には大きく影響しないと見込んでいる. セタシジミの飼育について,当初想定していた他機関での飼育が困難となり,飼育環境を新たに選定するための調査や飼育装置の考案・製作に時間を要した.そのため飼育の開始が予定より半年ほど遅れたが,研究の最終年度までには必要なデータを得られる予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
残る2カ年での工程を,1)成長線のタイムスケールの解明と,2)水温換算式の作成の大きく2つにわける.まず1)について,令和元年度は,殻の微細成長縞を観察しやすくするためのエッチングと染色法を検討し,観察方法を確立させる.そのうえで,琵琶湖で採取した現生セタシジミ試料について成長線の計測(成長線の計数,成長輪の計測,成長障害輪の識別など)をおこなう.また,同試料について酸素同位体比分析を実施し,成長線と酸素同位体比曲線との対比から成長の履歴(年単位,季節単位,日単位)の識別を試みる.以上により,セタシジミの成長とともに付加される殻物質が有する古環境指標としての時間分解能について検討する. 次に2)について,令和元年度は,人工池でのセタシジミの飼育を継続し,成長量を定期的に計測するほか,水質(温度,懸濁物質,懸濁炭素,懸濁窒素,クロロフィル等)を定期的に測定する.また,次年度に生息場の水の酸素同位体比を分析するため,定期的に採水をおこなう.令和2年度は,1年間飼育した個体について,殻の酸素同位体比分析をおこなう.また水の酸素同位体比分析をおこない,水温データとあわせて水温換算式の作成を試みる.なお,人工池で飼育中のセタシジミが死亡するおそれもあることから,その備えとして,琵琶湖で生息するセタシジミとその生息場の水を定期的に採取する.仮に飼育個体が1個体も得られない場合には,琵琶湖で採取した現生セタシジミ個体の殻の酸素同位体比と水の酸素同位体比,そして水温データからの水温換算式の作成を試みることとする. このほか,貝塚から産出するセタシジミ個体についても試料採取や殻の保存状態等の検討を進め,1)と2)の結果を踏まえ,琵琶湖古水温の定量的復元をめざす.
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Causes of Carryover |
研究上不可欠な備品や消耗品を過不足なく購入し,また研究遂行上必要な調査研究旅費も最小限にとどめて使用した結果,530円の残金が生じた.この額は翌年度分とあわせて,引き続き研究遂行上必要と考えられるものに対して適切に使用する.
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