2020 Fiscal Year Research-status Report
完新世の気候最適期における湖沼古水温の定量的復元法の開発
Project/Area Number |
18K03763
|
Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
堂満 華子 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (70397206)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | セタシジミ / 成長線解析 / 酸素同位体比分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,琵琶湖固有種セタシジミの殻の成長線解析と酸素同位体比分析を組み合わせることにより,殻から水温などの環境情報を連続的に読み取ることをめざす.このため令和2年度は,1)琵琶湖の水を引き入れた人工池で飼育するセタシジミの成長量の計測,2)成長量の大きい飼育個体の殻の1年間に成長した部位について成長線の観察,3)人工池の水質(水温・懸濁物質・Chl.a量)の定期観測を実施した. まず1)について,前年度の飼育で生残していた121個体を対象に,2020年4月1日から2021年3月31日までの飼育期間中,全個体の殻高を毎月1回計測した.ただし,そのうち成長速度の速い10個体は殻の酸素同位体比分析に供するため,2020年7月13日に飼育を終了した.その結果,2021年4月1日に生残していた個体数は78で,その平均成長速度は8~9月に比較的高く,4~7月そして10~3月に低くなる傾向がみられた. 次に2)について,2019年4月1日から2020年7月13日までに殻高が約3~5 mm成長した3個体の最大成長軸断面を観察した結果,灰白~淡黄色の層と紫色の層との互層構造が認められた.また紫色の層では濃淡が漸移的に変化し,きわめて濃い暗紫色を呈する部分が挟在した.このうち1個体について最大成長軸断面における殻頂からの長さと成長量計測時の殻高の長さを照らし合わせた結果,紫色の層は初夏から初秋にかけて形成され,暗紫色の層はとくに水温が高い時期に相当する可能性が示唆された. 3)について,人工池の水温は前年度とほぼ同様の変化傾向であったが,2020年12月から2021年1月にかけては前年度よりも低くまた日々の寒暖の差が大きかった.懸濁物質は2020年6月と8月に,Chl.a量は同年8月にそれぞれ高い値を示し,これらは前年度とは異なる変化傾向であった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に沿って,セタシジミ殻の成長線のタイムスケール解明に必要なデータはおおむね順調に取得できている.一方,水温換算式作成に必要な酸素同位体比分析については,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により研究協力者所属研究機関への旅行をともなう分析機器の使用を見合わせたため実施できなかった.このため研究期間を一年間延長することとしており,それゆえ全体としてはやや遅れていると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,成長量のとくに大きい飼育個体の殻の1年間に成長した部位について酸素同位体比分析をおこなうとともに,飼育期間中の水の酸素同位体比データと水温データをあわせて水温換算式を作成する.また,貝塚から産出するセタシジミ個体についても試料採取や殻の保存状態等の検討を進め,作成した水温換算式の適用をもとに琵琶湖古水温の定量的復元を試みる.成長線解析を継続し,観察された灰白~淡黄色の層と紫色の層との互層構造と成長の季節性との関係を検討する.
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて,当該年度に実施予定であった研究協力者所属研究機関への旅行をともなう分析機器の使用や成果発表をおこなうことができなかったため,それらに割り当てられていた予算を使用しなかった.このため補助事業期間を延長することとし,研究計画に沿って引き続き適切に使用する.
|