2019 Fiscal Year Research-status Report
The dynamics and evolution of delta distributary channels controlled by basin water depth: Experimental examination of the autostratigraphic theory
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18K03785
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
武藤 鉄司 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (70212248)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オート層序学 / 河川 / デルタ分流チャネル / 堆積盆水深 / 平衡指数 / 海水準 / 水槽実験 / モルフォダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
オート層序学は堆積系の非平衡応答と決定論的オートジェネシスの理解に根差した地層成因論の枠組みである。本研究は、河川デルタ系のオート層序理論から導かれる仮説「デルタ前縁の海の深さはデルタプレイン上の分流チャネルの動態を支配し、その支配のもとで分流チャネルは非平衡応答により変遷する」をモデル実験の手法で検証することを意図したものである。この仮説は、研究代表者ら(2016年)が提唱した平衡指数モデル(Grade Index Model)と直接関係し、そして同モデルからは、静止海水準のもとでデルタがその巨視的ジオメトリを持続しながら成長するとき、分流チャネルの無次元埋積速度、無次元移動速度、無次元アバルション周期などが平衡指数に反映されることが予想されていた。この予想の正しさは2018年度にはおおよそ見通せていたが、2019年度に行ったモデル実験などにより確証に至った。2019年度の具体的な成果は次の三点にまとめられる。 1. 平衡指数モデルはその基本形を変えることなく、係数に堆積盆水深の変化速度やデルタ堆積体の水平底面積などを繰り込むことで海水準上昇条件下にも適用できることが判明し、同モデルの汎用性が示された。この知見をまとめた論文はBasin Research誌に掲載された。 2. 海水準上昇に伴い分流チャネル前縁の挙動が変遷することを反映して水中段丘がオートジェニックかつ遷移的に生成することが平衡指数モデルから予想されていたが、この予想は水槽実験により裏付けられた。 3. 堆積盆水深を所定の周期・振幅のもとで振動させる二次元実験シリーズにより、多サイクル海水準変動フォーシングのもとでのデルタ性大陸棚の非平衡応答の変遷形態が明らかになった(論文1編をSedimentology誌へ投稿中)。三次元実験により海水準変動サイクルのもとでの分流チャネルの挙動の変遷についてもほぼ解明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目標に挙げていた検討事項や問題について、基本のところはすでに解明できており、問題の本質を正確に捉えることができたという感触がある。研究計画全体からすると「ゴールがすぐ近くに見えている」状況に到達している。得られた研究成果を記した論文3編がすでに学術誌に掲載され(米国地球物理学連合 Geophysical Research Letters誌; Wang、Urata、Sato、Muto & Naruse / 米国地質学会 Geology誌; Wang、Tamura & Muto / 国際堆積学会 Basin Research誌: Wang、Muto & Naruse)、また2編が投稿中(国際堆積学会 Sedimentology誌: Wang & Muto / Geology誌; Wu, Nittrouer, Muto, Naito & Parker)、さらに別の2編が執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度までの実験で得られた画像データについて、それらの読み取りと解析を続けるとともに、関係式の成否の定量的検証を続ける。2019年度までの研究で着想した新たな関連課題に三次元水槽実験で取り組む。その課題とは次のようなものである。十分に成長した大陸棚が海水準上昇のもとで非デルタ性海進を経験するとき、堆積系の平衡指数は1に極めて近い値を取る。その一方で、沖積河川の短縮に伴って分流チャネル前縁の海底水深が次第に増大していくと、分流チャネルは側方移動をしなくなり次第に安定化する。この変遷パターンと大陸棚縦断形との関係を明らかにする。これにより、現世の大陸棚の形成過程がオート層序学の枠組みの中で説明できるかもしれない。この課題を2020年中に実施し終える。また2020年度末までに、研究成果全体を総括する論文(=平衡指数モデルの意義と有用性、オート層序理論の改良、文献データに基づく現世及び過去の天然河川デルタ系への適用)を投稿することを想定している。
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Causes of Carryover |
2019年度は当初支出を想定していた論文掲載料と英語校閲料が外国人共著者の所属先研究経費から支出することになったため、本研究費からの支出を少額に抑えることができた。このことが次年度使用額33万円の主原因となった。 2020年度は2件の国際会議(いずれも米国)と3件の国内学会大会及び3編以上の論文掲載料・英語校閲料への支出を予定している。加えて、実験で使用する器材の劣化・老朽化が顕著になりつつあることから、その一部を2020年度経費から支出することを考えている。これらを含めた経費使用により、2020年度末までに全額を使用する計画である。
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