2020 Fiscal Year Research-status Report
東アジア大陸における白亜紀古気候の時空変化:温暖期の大気循環システムの解明
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18K03787
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
太田 亨 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40409610)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 白亜紀 / アジア大陸 / 後背地風化度 / 砂漠化 |
Outline of Annual Research Achievements |
アジア大陸における白亜紀の気候変遷を吟味するために、北から中国浙江省・中国四川省・北部ベトナム(ハノイ周辺)・中部ベトナム(ニャチャン周辺)・南部ベトナム(プーコック周辺)を調査地域として設定した。これによって、北緯10度から30度にわたる広域的な古気候の復元を試みた。それぞれの地域から泥岩試料を、下部白亜系、中部白亜系、上部白亜系相当層から採取し、全岩化学組成と粘土鉱物組成を分析した。このデータから後背地風化度を定量して、古気候の時空間変遷の復元を試みた。ただし、南部ベトナムの試料については、まだ分析が終了していない。 中緯度地域(浙江省・四川省)では前期白亜紀から中期白亜紀に向かって湿潤環境からの乾燥化、そして後期白亜紀に再度、湿潤化する傾向が共通してみられた。低緯度地域(北部・中部ベトナム)では、前期白亜紀から中~後期白亜紀に向けて、極度の乾燥化が進行していたことが検出できた。 この結果は、アジアの低緯度地域、元来は熱帯雨林気候であった地域を中心にして砂漠化が進行して、その乾燥化の影響は北緯30度にまで到達していたことを示している。現時点では、この低緯度地域の極度な乾燥化の要因とメカニズムは不明であるが、白亜紀中期に進行した温暖化暴走が関係していると思われる。今後は、解析を進めて地球温暖化の暴走がどのようにして熱帯雨林気候帯が砂漠化するのかのメカニズム解明を進める。その際の考察の鍵となるのが分析未完の南部ベトナムの試料だと期待している。この地域は解析ずみである前述の地域と、大気循環システムの位置付けが異なる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までに、中国浙江省・中国四川省・北部ベトナム(ハノイ周辺)・中部ベトナム(ニャチャン周辺)の機器分析が完了している。 申請者が開発した後背地風化度の地球化学的指標では、北部・中部ベトナムにおいては、前期白亜紀の熱帯雨林気候帯から、後期白亜紀には砂漠気候帯に変化したことが示された。この結果は岩相の記載と一致しており、上部白亜系に乾燥化を指示する石膏・カルシソルが認められた事実と調和的である。したがって、白亜紀中期にアジア大陸の低緯度地域が砂漠化したという解析結果は的確であったと考えている。 また、中国浙江省・四川省においては、地球化学的指標から、古気候が前期白亜紀の温暖湿潤気候から、中期白亜紀の半乾燥気候に変化したことが示された。現地踏査による岩相記載では、半乾燥気候が示唆される中部白亜系の層順に置いて、広角度斜行葉理を示す淘汰良好な風成デューンが発達することが確認できた。したがって、アジア大陸の中緯度地域においても、中期白亜紀に乾燥化が進行したと結論した、今回の解析結果を支持している。 このことから、中期白亜紀に低緯度地域は砂漠化が進行していて、北緯30度近辺がその乾燥化の北限だったと推測される。残された課題は、乾燥化気候の南限であるが、そのために南部ベトナム(プーコック周辺)を追加の調査地として設定した。ただ、去年度はコロナ禍の影響で、中国とベトナムの現地踏査を実行できなかった。しかし、ベトナムの研究協力者の助けによって、南部ベトナム(プーコック周辺)の試料を得ることができた。今後は、この赤道直下の試料の分析をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、南部ベトナム(プーコック周辺)の試料の分析を進める予定である。この地域(北緯10度)は、熱帯収束帯に位置していたと考えられる。対して、上記、分析ずみ試料は亜熱帯高圧帯とその南域に位置していて、南部ベトナムの試料からは大気循環の位置付けが異なる地域のデータが得られると期待している。中期白亜紀の砂漠化は地球温暖化の暴走が引き金になっている可能性が高い。一般的に、地球温暖化が進行すれば、赤道域から極域への熱移送が活発化して、結果、ハドレー循環が強化される可能性がある。ハドレー循環が強化されれば、その大気流降下の位置にある北緯20~30度の地域は乾燥化が強化されるだろう。このために、本研究で示した中緯度地域が乾燥化した可能性がある。しかし、ハドレー循環が強化されれば、熱帯収束帯における降雨量は増強されると考えられる。もしも、南部ベトナムにて、白亜紀における古気候変遷が解明されれば、アジア地域の砂漠化が、大気循環システムの更新によって引き起こされていたのかを検証する題材になると期待している。他方、もしも南ベトナムの試料が、前期白亜紀から後期白亜紀にかけての湿潤化を示唆する結果が得られなかった場合、温暖化による大気循環システムの更新が、アジアの砂漠化を招いた引き金である可能性が低くなる。ただし、申請者は、去年、南ベトナムの現地踏査に参加できなかったが、露頭写真や岩石サンプルを見る限り、下部白亜系と上部白亜系の試料ではやはり、乾燥化していたという結果が出るのではないかという感触を得ている。その場合、温暖化暴走による大気循環システムの更新ではなく、アジア地域の乾燥化に対する新たなシナリオを提示することにつながる研究計画であったと考えている。
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Causes of Carryover |
この研究は、中国とベトナムにおける現地踏査が基礎となっている。去年度はコロナ禍のために、海外調査が行えなかったので当該助成金が生じた。また、現地渡航が叶わなかったために助成金が発生したとともに、機器分析も試料が無い以上、これも遂行がかなわなかったので当該助成金が発生した。しかし、ベトナム研究者の協力によって、試料の採取と郵送いただいたので、本年度は予算を機器分析に活用する計画である。
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Research Products
(1 results)