2019 Fiscal Year Research-status Report
地殻構造モニタリングに基づく断層すべりメカニズムの解明
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18K03791
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Research Institution | National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention |
Principal Investigator |
山下 太 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波防災研究部門, 主任研究員 (90374165)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地殻比抵抗 / Magnetotelluric法 / スロー地震 / 長期的スロースリップ / 間隙水 |
Outline of Annual Research Achievements |
四国西部の窪野観測点および生田観測点で2008年から蓄積されているMT(Magnetotelluric)法連続観測データにHonkura et al. (2013, Nature comm.)の手法を適用し、約10年間に渡る見かけ比抵抗および位相の時間変化を推定した。その際、前年度に検討した解析条件と同様に電場と磁場のコヒーレンシーの閾値が0.9以上となるデータのみを選出して計算に使用したが、その後の解析手順を見直し、計算されたMT解析パラメタを1日毎に平均化した後、60日のカットオフ周期をもつローパスフィルターで処理することにした。さらに気温変動に由来する年周変動も取り除いた。これらの解析手順の改良により、MT解析パラメタの時間変化の安定性が向上した。解析対象の周波数は0.00028 Hzから0.035 Hzの8周波数を対象とし、得られた解析データをデータベース化して任意の時期の見かけ比抵抗および位相を容易に閲覧できるようにした。解析手順の変更をおこなうことにより、生田観測点における2011年から2012年の見かけ比抵抗の長期的低下がより明瞭になった。他方、窪野観測点においては同時期に明瞭な見かけ比抵抗変化が見られないことから、地殻の比抵抗変化が生じた地域が限定的であると考えられる。2010年に豊後水道において発生した長期的スロースリップが原因とすれば、より東方に位置する窪野観測点で変化が見られないことは調和的である。一方で、短期的スロースリップに同期したと考えられる比抵抗変化は全観測期間を通して1例のみであったことから、検出されうる地殻の比抵抗変化を引き起こすにはイベントがある程度大きく、かつ長期に渡る必要があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
解析手順の見直しにより、MT解析パラメタの時間変化の安定性が向上した。その結果、生田観測点と窪野観測点における差違が明瞭となり、2011年から2012年における生田観測点での見かけ比抵抗低下が長期的スロースリップに関連した地殻比抵抗変化に起因する可能性が高くなった。また、短期的スロースリップでは定常的に検出可能な比抵抗変化を引き起こせないことも明らかとなり、比抵抗変化モデルの拘束に有用な情報を得ることができた。2018年から豊後水道において長期的スロースリップが発生していたため、同様の比抵抗変化を捉えるべく機器トラブルで休止していた観測の再開を試みたが、MT観測機器メーカーであるPhoenix社(カナダ)が、現在使用している機器(MTU-5S)のサポートを中止するとの決定を下したため修理不可能となった。これにより両観測点とも復旧できないこととなり全体の計画進行に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
MTU-5Sによる観測を継続できないこととなったため、新たに後継機を購入し、生田観測点に設置して観測を再開させる。2010年の豊後水道における長期スロースリップ発生時には見かけ比抵抗が定常のレベルに戻るまで約1年を要したため、同様の変動を捉えられる可能性がある。これまでに蓄積されたデータを整理し、2011年に生田観測点で検出された見かけ比抵抗変化を説明する地殻構造変化モデルを構築する。この際、当該地域で得られている二次元比抵抗構造を参考とするとともに、窪野観測点では変化が得られていないこともモデルの拘束条件として使用する。この構造変化の原因が2010年に発生した豊後水道における長期的スロースリップであると仮定し、プレート境界で発生した断層すべりが時間差をおいて地殻構造変化を生じさせるメカニズムについても考察をおこなう。
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Causes of Carryover |
これまでに使用してきたPhoenix社製 MT法連続観測機器(MTU-5S)がサポート対象外と決定され正常に稼働しなくなったため、令和2年度助成金と令和元年度助成金を合算して新規にサポート対象の後継機1台を購入し、観測を再開する。
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