2019 Fiscal Year Research-status Report
地震学的手法によるグリーンランド氷床の底部融解の準リアルタイム検出
Project/Area Number |
18K03794
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
豊国 源知 東北大学, 理学研究科, 助教 (90626871)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グリーンランド氷床 / 地震学 / 氷床融解 / アイスランドプルーム / 大西洋中央海嶺 |
Outline of Annual Research Achievements |
R1年度は,昨年度の「今後の研究の推進方策」で述べたグリーンランドとその周辺地域の地下構造解析をメインに研究を行った.氷床融解には,グリーンランドを乗せたプレートが,8000~2000万年前にアイスランドホットプルームの上を通過したことによる地殻・マントル内部の残留熱が深く関わっていると考えられているため,対象地域化の詳細な地下構造解析は,本研究課題の推進にとって必要不可欠な事項である. 最新の地震観測網(GLISN)で得られた大量のP波の到着時刻データを用いて地震波トモグラフィーを実行し,グリーンランドとその周辺地域下の地表から核-マントル境界までの全地殻・マントル構造を詳細に調べた.解析には,地殻・上部マントルに感度を持つリージョナルトモグラフィーと,深部マントルに感度を持つグローバルトモグラフィーの両方を用いた.結果として以下のような事実が明らかとなった. ①グリーンランド中央部の深さ250 km以浅に,北西-南東方向に伸びる顕著な低速度異常領域が見いだされた.これは先行研究での指摘の通り,アイスランドプルームの残留熱を反映していると考えられる.ただ本研究で初めて,低速度域がグリーンランドリソスフェア内部に収まっていること,および高地殻熱流量域と極めてよく一致することが確認され,仮説の確度が大幅に高められた.また,隣接するヤンマイエンプルームの残留熱と思われる新たな低速度域が発見された. ②アイスランドプルームはこれまで一本のプルームと考えられてきたが,アイスランド直下の深さ1500 kmから立ち昇るプルームと,グリーンランド直下の核-マントル境界から立ち昇るプルームの複合体である可能性が示された.本研究では後者を「グリーンランドプルーム」と命名した.二本のプルームはマントル遷移層で合流した後,アイスランド,ヤンマイエン,スバールバルにマグマを供給している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
R1年度は,高分解能の地震波トモグラフィーを実行することで,グリーンランドや,隣接するアイスランドや大西洋中央海嶺下の地下構造について,これまで知られていなかった様々な新事実を明らかにした. 例えば,従来のグリーンランド氷床底部からの融解見積もりは,地殻やマントルのトモグラフィーで得られた地震波速度異常領域を,温度分布に焼き直すことで行われてきた.今回トモグラフィーモデルの解像度を大幅に向上させたことで,融解見積もりの精度もさらに向上すると考えられる.特に従来知られていなかったヤンマイエンプルームの残留熱の発見したことは,融解見積もりと,それによる海面上昇予測に大きな影響を及ぼすと考えられる. また今回の研究では,グリーンランド北東沖の深さ500 km以浅に高速度岩体が存在し,グリーンランドプルームの流れを分断している可能性が示唆された.この高速度岩体は,パンゲア大陸の分裂時から存在した大西洋中央海嶺の屈曲部に位置していることから,この岩体が大西洋中央海嶺におけるプレート拡大様式の変化も引き起こしていると考えられる. 以上のように,R1年度の成果は,グリーンランドとその周辺地域のテクトニクスに対する従来の理解を大幅に塗り替える発見を数多く含んでおり,本課題の進捗としても,当初の計画以上に進展していると言える.R1年度の成果は,米国地球物理学連合の論文誌である,Journal of Geophysical Research誌に,2篇の論文として投稿済みである.
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Strategy for Future Research Activity |
R2年度以降は,H30年度の結果を元に地震波干渉法のプログラムを高速化したうえで,専用の計算機を用いて,データ期間を延長させながら,全観測点ペアについて解析を試みる予定である.測線はトータルで300本程度になる.本課題4年間のデータを加えると,トータル10年以上のデータ長を確保できるため,位相速度の経年変化の検出精度は,倍以上に改善すると見込まれる.地震波干渉法で表面波の情報を抽出するには,ある程度長期間(数ヶ月程度)の平均化が必要であるが,最新のデータを逐次加えて平均化を行うと,タイムラグ10日程度の準リアルタイムで氷床底部の情報を抽出できる.こうした研究によって,従来のリモートセンシング技術よりも直接的かつ高い時間分解能で,氷床底部における融解モニタリングが可能になると期待される. 本課題の対象領域は,雪氷・地殻・海洋という多圏融合型の領域であるため,上記の解析に加え,以下のような解析も行い,多角的な検討を行う予定である. (1)氷床上の単観測点で得られた地震波形の自己相関解析から,ローカルな氷床内部状態の時間変化を検出する.(2)連続波形データから地震イベントの波形を抽出し,レシーバー関数解析を行うことで,グリーンランド直下のコンラッド面やモホ面等の不連続面の形状を詳細に調べる.
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Causes of Carryover |
R1年度はアメリカ隊の予算がつかなかったことで,観測点のメンテナンス自体がキャンセルとなった.R2年度中に2回観測に行く可能性があるため,できるだけ多くの金額を繰り越した.
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Research Products
(7 results)