2020 Fiscal Year Research-status Report
地震学的手法によるグリーンランド氷床の底部融解の準リアルタイム検出
Project/Area Number |
18K03794
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
豊国 源知 東北大学, 理学研究科, 助教 (90626871)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グリーンランド氷床 / 地震学 / 氷床融解 / アイスランドプルーム / 大西洋中央海嶺 |
Outline of Annual Research Achievements |
R2年度は,[研究1]グリーンランドとその周辺地域下の等方性トモグラフィー,[研究2]異方性トモグラフィー,および[研究3]グリーンランド氷床の非弾性減衰(Q値)の測定,という3つの研究を主に行った. [研究1]は昨年度からの継続で,解の信頼度を示す分解能テストと,結果の解釈をさらに充実させ,国際誌に2編のフルペーパーとして出版した(Toyokuni, Matsuno & Zhao, 2020a, 2020b, JGR). [研究2]の異方性トモグラフィーは,地震波速度が方位によって異なる「地震波速度異方性」をトモグラフィー的に3次元で明らかにする手法である.異方性はマントルの流動に伴う鉱物の結晶の選択配向やマントルプルームの形状等で引き起こされるので,異方性トモグラフィーはマントルのダイナミクスを知る手掛かりとなる.得られた異方性のパターンはアイスランドプルームの上昇に伴う理論予測とよく一致し,他の研究で指摘されていたアイスランド下のマントルのbackground flowの存在も確かめられた.この成果は国際誌にフルペーパーとして投稿した(Toyokuni & Zhao, 2021, ESS, 査読中). [研究3]は,GLISN観測網で得られたレイリー波の観測波形と,3次元モデリングで得られた理論波形とを比較してQ値を測定したものである.結果として,氷床は極めて高い減衰性を示すことと,その空間分布が明らかとなった.Q値は氷床内部の温度状態や構造を反映しており,減衰が周囲よりも弱い場所は,氷床が大規模に融解・再凍結して,気泡の混じらない氷が発達している場所と推察された.この成果は国際誌にフルペーパーとして出版された(Toyokuni, Komatsu & Takenaka, 2021, JGR).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はグリーンランド氷床の底部融解のメカニズムを明らかにし,その検出を目指したものである.[研究1]と[研究2]は,グリーンランドの地下の大規模構造の解明を通して,熱的過程の根本原因を探る研究であるのに対し,[研究3]は氷床内部の現在の温度状態・融解履歴を直接探る研究である.よってR2年度は様々な研究手法を使い,本課題に多角的にアプローチできたと言える. 特に[研究1]の成果はプレスリリースを行い,Web上での影響度を示す「Attention Score」で,米国地球物理学連合のJournal of Geophysical Research: Solid Earth誌でこれまで発表された1664論文中の歴代4位を記録した(2021年1月15日時点).また[研究2]では,[研究1]で使用した到着時刻データをさらにアップデートし,深さ750 kmまでの異方性構造を世界で初めて明らかにした.プレート沈み込み帯や大陸衝突帯における異方性トモグラフィーの研究事例は数多いが,ホットプルームに関連した研究例はごく僅かしかなく,本研究が先駆的な研究事例となった.[研究3]に関しては,氷河や氷床のQ値を測定した研究が,これまで伝播距離数km程度のものしかなく,本研究で初めて100 kmを越える超長距離伝播での測定が成功した. このようにR2年度に行った研究は,全て特筆すべき注目性と新奇性を持っている.さらに[研究1]と同様の手法を,台湾に適用した論文も出版しており(Toyokuni, Zhao & Chen, 2021, PEPI),国際誌に筆頭著者として4編の論文を出版, 1編を投稿するという多産な年度となった.以上のことから進捗状況は,「当初の計画以上に進展している」と評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
課題最終年度であるR3年度は,以下の研究を進める予定である.<研究1>北極地域全域を対象とした全マントルトモグラフィー,<研究2>GLISN観測網の波形記録から読み取ったS波到着時刻を用いた,P波S波トモグラフィー,<研究3>3成分地震波形記録を用いたレイリー波とラブ波の地震波干渉法解析. <研究1>と<研究2>は,R2年度の[研究1]と[研究2]を発展させたものである.<研究1>では,北極全域というさらに広範囲を対象として,本課題に関連する領域のテクトニクスや熱的活動を,より巨視的な観点から理解することを目指す.また<研究2>では,国際地震センター(International Seismological Centre / ISC)等で公開されている到着時刻データにはほとんど含まれていないS波到着データを自ら読み取ることで,先行研究では行われていないS波速度構造の解析を目指す.S波速度は地下の温度状態や流体の存在により敏感であるので,その解析で本課題に関連した熱的プロセスの理解がさらに進むと考えられる. <研究3>では,地震波干渉法のプログラムを高速化したうえで,データ期間を延長させながらGLISNの全観測点ペアについて解析を試みる予定である.測線はトータルで300本程度になる.本課題4年間のデータを加えると,トータル10年以上のデータ長を確保できるため,位相速度の経年変化の検出精度は,倍以上に改善すると見込まれる.地震波干渉法で表面波の情報を抽出するには,ある程度長期間(数ヶ月程度)の平均化が必要であるが,最新のデータを逐次加えて平均化を行うと,タイムラグ10日程度の準リアルタイムで氷床底部の情報を抽出できる.こうした研究によって,従来のリモートセンシング技術よりも直接的かつ高い時間分解能で,氷床底部における融解モニタリングが可能になると期待される.
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Causes of Carryover |
R2年度はアメリカ隊の予算がつかなかったことで,観測点のメンテナンス自体がキャンセルとなった.またコロナのため国外への出張は叶わなかった.R3年度中に複数回観測に行く可能性があるため,できるだけ多くの金額を繰り越した.
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