2019 Fiscal Year Research-status Report
疲労条件下の水素脆化メカニズムに及ぼす過大荷重履歴の影響
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18K03850
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Research Institution | Shonan Institute of Technology |
Principal Investigator |
大見 敏仁 湘南工科大学, 工学部, 准教授 (90586489)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水素脆化 / 数値解析 / 疲労 / 過大荷重 / 水素濃度分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素ガスと接触する環境で使用される鉄鋼材料は,材料中に水素が侵入することで「水素脆化」現象が発現する。しかしながら,この水素脆化の原因は未だに明らかとなっていない。材料中の水素の移動は応力の影響を受けるため,均一な濃度分布とはならならず,濃度が高くなった箇所で水素脆化が発生し,そこが破壊起点となると考えられている。従って,材料中の水素凝集メカニズムやその場所を解明することで,水素脆化が誘起されにくい条件をも知ることができる。 本研究では,過大荷重履歴のある疲労条件下での応力集中部における水素凝集メカニズムを数値解析により明らかにし,実験的にも検証・考察を行う。本研究成果は,耐水素脆性が求められる構造物の設計や破壊寿命予測などを可能とする。水素エネルギーインフラの安全性と経済性に寄与する重要な研究課題である。 令和元年度(平成31年度)は,数値解析を用いて水素凝集に及ぼす過大荷重履歴の定性的傾向を得るため,ヤング率・加工硬化係数・疲労荷重および過大荷重に的を絞って解析行い、ある特定の条件においては過大荷重により水素凝集が促進され,水素脆化が誘起されやすい可能性があることを数値解析的に示した。この成果をまとめて学会発表などを行った。 小型試験片を用いた水素脆化疲労試験に関しては,ステンレス鋼(SUS430)などの鉄鋼材料に対する水素脆化試験を令和元年度に行った。予想以上に水素脆化に鈍感さを示す実験結果であったため、水素チャージ条件や疲労条件などを再確認するとともに、水素チャージ量を確認する必要がある。また、過大荷重履歴の影響を実験的に確認するために必要な試験装置の改良を行った。これらの実験は令和2年度に実験を完了予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和元年度に予定していた数値解析の内容に関しては,プログラムの改良及び解析の実行が当初の計画通りに進めることができた。すなわち,疲労環境下の過大荷重によって水素凝集が促進される場合があることを数値解析で示すことができた。過大荷重がある場合の方が,水素凝集が抑制される条件も存在し,非常に複雑なメカニズムであることが予想される。材料物性や応力状態などの定性的な傾向まで解析することができた。加えて,応力多軸度に注目して最大水素濃度との関連についても明らかにした。これにより,FEMによる構造解析の結果からの水素凝集能力(容量)を簡易的に予測することができる可能性を示した。設計に直接反映可能な予測式をも提案可能な成果であり,十分な進捗状況と言える。 一方,令和元度に予定していた水素脆化試験に関しては,過大荷重の絶対値・過大荷重を付加するタイミングを制御することに挑戦したが,予定よりもやや遅れている。実験装置の改良の準備は終了し,複数の実験を行ったが、さらに回数の積み重ねが必要な課題でもある。新型コロナウィルスの影響で大学の実験装置の稼働環境が整わない日が続いている家協が出ている。最終年度である本年まで実験を行う予定ではあったが無視できない遅れが出ている。ただし,数値解析はほぼ終了しているため,その結果も生かし研究を完了することができる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
数値解析に関しては,問題なく進めることができる見込みである。今後は,最終的な成果報告のための確認解析や補間的な解析を予定している。最終的には代表的な材料物性に対して様々な値での数値解析を実行し,定性的な傾向を明らかにしていくことができると考えられる。 小型試験法を用いた水素脆化試験に関しては,過大荷重の影響を確認するための実験の実施が一番の課題となる。中でも,水素脆化が「促進される場合」と「抑制される場合」という正反対の状況が数値解析により予想されるため,疲労中の過大荷重の負荷頻度が重要なポイントとなると考えられる。現状では実験条件の設定に時間がかかってしまっている。この課題に関しては,数値解析の結果を用いることにより実験条件の定性的な絞り込みを効率よく行い,必要な実験回数を減らすことが可能と考えられる。これにより,研究の進捗を早めることが可能と考えられる。
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Causes of Carryover |
疲労試験装置の改良に時間がかかり,実験開始が遅れたため支出が予想以上に少なかった。 本年度は実験を行う準備も整い,装置の整備費用や実験消耗品の購入もすでに予定しているためより効率的に研究に使用することができる見込みである。 また,平成30年度に節約した予算を疲労試験機の整備に充てることでより多くの実験が可能になり,研究をより推進させる予定である。
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Research Products
(6 results)