2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03909
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
畠中 清史 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 講師 (40325577)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | トライボロジー / ロータダイナミクス / 機械要素 / すべり軸受 / ジャーナル軸受 / 浮動ブシュ軸受 / 高速回転 / 油膜幅縮小 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、浮動ブシュ軸受で見られる特異現象の理論的な解明を目指す。 浮動ブシュ軸受は小型高速回転機械を支えるジャーナル軸受で、特殊な構造をしている。浮動ブシュ軸受で支える高速回転軸では、オイルホイップと呼ばれる自励振動が発生して危険な運転状態になっても、軸回転速度を高めればその振動を消滅させることができる。 この現象は軸受分野における未解明問題の1つであり、これを合理的に説明できる理論モデルは未だに完成していない。申請者は、この特異現象が浮動ブシュの内側で油膜幅が縮小するために生じると推測している。本研究の目的は2つある。1つ目は実現象の把握である。高速浮動ブシュ軸受の内側すきまの油膜を模擬した軸受試験装置を設計開発し、油膜幅縮小に関する可視化実験を行い、理論モデルの構築に必要となる実験データを取得し、その評価を行う。2つ目は理論モデルの構築である。実験結果をもとにして理論モデルを提案し、これを用いて実験結果を合理的に説明する。 第1の目的について、前年度に取組みを終えた実験装置本体・駆動系・給排油系・電気系に加えて、本年度は、まず、測定系の構築を済ませた後、供試軸の試運転を実施した。それと並行して、その回転・振動特性の評価を行った。最終的に、供試軸は、低振動レベル(0.0005 mm以下の振動振幅)を維持した状況の下で目標最高回転速度(50000min-1)に到達することに成功した。また、最高回転速度までの範囲で軸回転速度を任意の値に調整することにも成功した。次年度は供試軸受を装着した実験に着手する。 第2の目的について、軸受外部から軸受すきま内に空気が侵入して油膜の幅が狭まる状況をシミュレーションするのに粒子法が適していることが分かった。次年度は、MPS法とSPH法のいずれの粒子法が適当であるのかを判断し、油膜幅が縮小する現象に対する理論モデルを提示する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の目的について、年度当初は実験装置が稼働できる状態になることを目指していた。 高速浮動ブシュ軸受の内側油膜は、直接観察することは困難である。このため、内側油膜そのものではなく、それを模擬した真円軸受の実験装置とした。本実験装置に要求される項目を列挙すると、(1) 供試軸の最高回転速度は50000 min-1 である、(2) 軸回転速度は最高回転速度まで容易に調節できる、(3) 軸回転速度の計測が可能である、(4) 供試軸受の油膜が観察できる、(5) 供試軸受の油膜トルクを測定できる、(6) オイルホイップが発生しても破壊に至らない、(7) 供試軸受の脱着が容易である。本年度の研究はおおむね順調に進捗し、これら7つの項目のうち(1)、(2)、(3)、(7)を満たすことができた。具体的には、実験装置の中で特に重要な供試軸の回転・振動特性の評価試験を行い、低振動レベル(0.0005mm以下の振動振幅)を維持した状況の下で目標最高回転速度(50000min-1)まで到達することに成功した。また、最高回転速度までの範囲で軸回転速度を任意の値に調整することにも成功した。なお、供試軸の最高回転速度(50000min-1)は、口頭発表用の予稿集原稿を提出した後に実施した実験において達成した値である。 第2の目的については、年度当初の予定通り、粒子法の調査に取り組んだ。今年度はMPS法に加え、もう一つの粒子法であるSPH法にも調査対象を広げ、いずれの方法であっても、軸受外部から軸受すきま内に空気が侵入して油膜の幅が狭まる状況をシミュレーションするのに適していることが判明した。
|
Strategy for Future Research Activity |
第1の目的について、供試軸に供試軸受を装着した状態で実験を実施する。今年度は、目標最高回転速度までの範囲において任意の軸回転速度で供試軸を回転できるようになった。この軸にスリーブ状の構造をした供試軸受を装着する。軸受の種類は、浮動ブシュ軸受の内側油膜を模擬した真円軸受である。供試軸受をスリーブ状にしたのは、スリーブの両端をスクイーズフィルムダンパにすれば、このダンパに浮動ブシュ軸受の外側油膜と同等の減衰効果が期待できるからである。外側油膜を2分割して内側油膜の左右両側に配置する構造となるので、中央部に空間で内側油膜の観察が可能になる。 実験装置は、試行錯誤を繰り返さなければ所望した性能を発揮できないことが経験上分かっている。幾度かの失敗を経ることを前提としつつも、回転機械は大事故を引き起こす可能性が高いので、不具合を一つずつ解消しながら、慎重に実験を進めていく。 具体的には、供試軸受を装着して、高速回転時に軸受すきま内に外部から空気が引き込まれて油膜幅が縮小する現象が実際に再現できることを確かめる。再現できた場合は、それがどのように起こるのかを調べる。また、軸受設計変数を変更した場合に油膜幅の縮小現象にどのような影響が現れるのか、どのような条件が揃うときにそれが生じるのか,について調査する。 第2の目的については、粒子法に関する調査を継続し、軸受外部から軸受すきま内に空気が侵入して油膜の幅を押し狭める状況をシミュレーションするのに、MPS法とSPH法のどちらが適当であるのかを判断する。また、実現象の観察結果を踏まえて、油膜幅が縮小する現象に対する理論モデルを提示する。そして、この理論モデルに基づくプログラムを開発し、これによるシミュレーションの結果と実験結果との差について考察を行い、理論モデルに改善を加える。最終的には、実験結果を合理的に説明できる理論モデルの構築を目指す。
|
Causes of Carryover |
本実験装置を稼働させられる状況に到達するまでにさまざまな不具合が生じた。これらを適宜解消していく上で種々雑多な物品が必要となり、それらを1点ずつ調達していった。しかし、年度途中で年度当初の所要見込額を超過したため、前倒し請求を行うことになった。次年度使用額が生じる可能性が高いことは認識できていたが、今年度の実験を継続する上では数万円の不足分がどうしても必要であったため、最低請求額の10万円を申請した。物品費と旅費、その他を合わせて、実支出額の累計額を当該年度の所要額に一致させようとしたが叶わず、結果的に5万円弱が次年度使用分として生じることとなった。ただし、当該助成金は少額である。最終年度までに実施する実験用の物品購入で使い切ることが可能な額である。
|