2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03909
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
畠中 清史 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 講師 (40325577)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トライボロジー / ロータダイナミクス / 機械要素 / すべり軸受 / ジャーナル軸受 / 浮動ブシュ軸受 / 高速回転 / 油膜幅縮小 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、浮動ブシュ軸受で見られる特異現象の理論的な解明を目指す。 浮動ブシュ軸受は小型高速回転機械を支えるジャーナル軸受で、特殊な構造をしている。浮動ブシュ軸受で支える回転軸では、オイルホイップと呼ばれる自励振動が発生して危険な運転状態になっても、軸回転速度を高めればその振動を消滅させることができる。 この現象は軸受分野における未開問題の1つであり、これを合理的に説明できる理論モデルは未だ完成していない。申請者は、この特異現象が浮動ブシュ軸受の内側で油膜幅が縮小するために生じると推測している。本研究の目的が2つある。1つ目は実現象の把握である。高速浮動ブシュ軸受の内側すきまの油膜を模擬した軸受試験装置を設計開発し、油膜幅縮小現象に関する可視化実験を行い、理論モデルの構築に必要となる実験データを取得し、その評価を行う。2つ目は理論モデルの構築である。実験結果をもとにした理論モデルを提案し、これを用いて実験結果を合理的に説明する。 第1の目的について、実験装置を改良して供試軸受の油膜トルクを測定し、軸回転速度と油膜トルクとの関係性について明らかにした。また、この測定実験と並行して油膜状態の観察実験を同時に実施し、油膜トルクと油膜状態との間に密接な関係性があることを明らかにした。実験値が軸受設計変数から受ける影響については、給油圧力を変更した場合について調べ、給油圧力が低いほど油膜トルクが低下することを明らかにした。本年度の実験結果は、理論モデルを構築するための重要なヒントとなった。 第2の目的について、粒子法の一種であるMPS法を適用して、同心すべり軸受の油膜トルクを適正に算出できるプログラムを開発した。軸が低回転数で定常運転するときの油膜トルクを求めるとともに、軸受設計変数が油膜トルクに及ぼす影響について明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の目的について、まず、年度当初に掲げた供試軸受の油膜トルクを測定できるように実験装置を変更し、軸回転速度と油膜トルクとの関係性を明らかにした。軸回転速度が小さいときの油膜トルクの測定値は、遠心力の作用が小さいために、油膜幅の縮小現象が生じないとする従来の理論モデルによる計算値と一致した。しかし、軸回転速度の上昇とともに、測定値と理論値とのずれは大きくなった。これは、本実験装置が理論モデルの構築に有用なデータの取得に向いていることの証左となる。この実験では、また、油膜トルクを測定するとともに、油膜状態の観察を実施した。これにより、油膜トルクと油膜状態とが密接に関係することが明らかになった。ただし、定量的に評価する段階までには至っていない。実験値が軸受設計変数から受ける影響については、給油圧力を変更した場合について調べ、給油圧力が低いほど油膜トルクが低下することを明らかにした。この傾向は、従来の数値シミュレーション結果と定性的に一致する。この結果から、従来の理論モデルをもとにして新たな理論モデルを構築すればよいとの確証が得られた。 第2の目的については、粒子法の一種であるMPS法を適用して、同心すべり軸受の油膜解析を行うためのプログラム開発に取り組み、軸受すきま内で油膜の幅が時々刻々と変動する場合の油膜トルクの算出を行うことに成功した。このプログラムを適用することにより、軸が定常回転するときの油膜トルクを適切に求めることができ、また、さまざまな軸受設計変数が油膜トルクに及ぼす影響について明らかにすることができた。しかし、今回開発したプログラムは低速回転用である。油膜幅の縮小現象を引き起こすと推測される遠心力ならびに気油の界面形成に影響を及ぼすはずの表面張力については、理論モデルに反映できていない。今後はこれらを取り入れてモデルを修正する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
第1の目的について、供試軸受を装着した実験は引き続き実施する。本年度の実験結果では、油膜トルクのばらつきが大きいことが判明した。これを抑制する方法について、観察結果をヒントにして、検討したい。その一方で、油膜トルクと油膜状態との間の関係性を定量的に評価するための実験にも取り組む。カメラ画像により取得した油膜の幅を用いて従来の理論モデルによる油膜トルクを計算しても、その値は実測値に一致しない。両者を一致させるためには、油膜の厚み方向に起きている状況を理論モデルに取り入れなければならない。しかし、油膜の状態をデジタルカメラにより観察する現状の方法では、油膜の厚み方向にどのような状況になっているのかについて調べることはできない。このため、光学的な手法を取り入れた実験装置を新たに設計し、数十マイクロメートル程度の厚さの中で油と空気が混在する状況を定量的に評価する方法について模索する。また、この方法を取り入れることができるように、現在の実験装置に改良を加える。 第2の目的については、MPS法にもとづくプログラム開発を継続する。遠心力および表面張力の影響を考慮に入れられるように理論モデルに修正を加える。遠心力は油膜幅の縮小現象を引き起こす主因と推測される。これを理論モデルに取り入れることで、どのようなメカニズムで油膜幅の縮小が生じるのかについて明らかにする。また、表面張力は気油界面の形成に影響を及ぼす。これを理論モデルに取り入れることで、遠心力の作用に起因する油膜幅の縮小がどのような影響を受けるのかについて明らかにする。
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