2019 Fiscal Year Research-status Report
大規模構造・波動・渦の共存する非等方性乱流の生成維持機構と遷移域のエネルギー輸送
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18K03927
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
横山 直人 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任准教授(常勤) (80512730)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高岡 正憲 同志社大学, 理工学部, 教授 (20236186)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非等方乱流 / エネルギー輸送 / 異種乱流の共存 / 一般化逆行列 |
Outline of Annual Research Achievements |
非等方性を持つ流体乱流系が、広帯域に渡るスペクトルをもつとき、大規模構造・波動・渦をそれぞれ構成要素とする異なる種類の乱流が共存する。大規模構造・波動・渦とは、回転乱流では渦柱・慣性波・渦であり、成層乱流では鉛直剪断水平流・内部重力波・渦である。この異種乱流の共存状態において、これらの異種乱流間のエネルギー輸送を定量的に評価することが本研究課題の目的である。 まず、異種乱流の共存状態において、異なる乱流の境界となる波数を定量的に定める必要がある。成層乱流において、波数のもつエネルギーの内訳を、それぞれの乱流を構成する要素がもつ時間スケールの比によって説明した。例えば、内部重力波の時間周期が、渦のもつ時間スケールより十分短い波数領域では、内部重力波のもつエネルギーが渦のもつエネルギーよりも十分大きく、内部重力波が支配的であることを示した。これらの結果をPhys. Rev. Fluids誌に発表した。 次に、回転乱流において、エネルギー輸送の局所性と効率性を仮定し、一般化逆行列を用いて波数空間で局所的に定義されるエネルギーフラックスベクトルを得た。回転乱流においては、慣性波乱流の共鳴相互作用によるエネルギー輸送の指向性が非常に高いため、成層乱流のように時間スケールによる波数領域の分割は適切でない。しかしながら、弱乱流理論によって予測される慣性波乱流のエネルギースペクトルが観測される波数領域では、一般化逆行列を用いて得られるエネルギーフラックスの向きが、弱乱流理論の予測するエネルギーフラックスの向きと一致した。これらの結果を国内外の会議において発表し、学術誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、回転乱流において、エネルギー輸送の局所性と効率性を仮定し、一般化逆行列を用いて波数空間で局所的に定義されるエネルギーフラックスベクトルを得た。特に、非等方性の強い慣性波乱流では、弱乱流理論の予測するエネルギーフラックスを得て、一般化逆行列を用いたエネルギーフラックスベクトルの妥当性を示した。また、慣性波乱流の波数領域に注入されたエネルギーが共鳴相互作用によって高波数に輸送され、回転に垂直な向きに小さい構造を作り、この波数では弱乱流ではなくなる。この準2次元構造は次第に2次元化する。さらにその後、2次元逆カスケード過程によって、大規模な渦柱が構成される。これは、回転乱流における波動から大規模構造へのエネルギー輸送を示している。 一方で、波動から渦へのエネルギー輸送の定量化のためには、現状の直接数値シミュレーションでは規模が小さく、より大規模な直接数値シミュレーションが必要である。これは、慣性波乱流と渦乱流の遷移領域で、粘性散逸が大きく、渦乱流領域を十分解像できていないためと考えられる。本年度は相対的に規模の小さい数値シミュレーションを初期条件として、段階的に高波数領域を大きくすることで、可能な限り短い計算時間で大規模な回転乱流の統計的定常状態を得ることを試みてきた。しかしながら、計算規模が低波数の渦柱に少なからず影響し、大規模な回転乱流の統計的定常状態を得ることに、研究計画での想定より長時間を要している。 また、より大規模な数値シミュレーションが可能な2次元ベータ平面乱流では、臨界平衡の予測するエネルギーフラックスが得られている。したがって、回転乱流においては計算規模を大きくすることが、異種乱流の共存状態における非等方性乱流の生成維持機構を解明するという研究目的を達成するための課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの回転乱流や成層乱流の数値シミュレーションにおいて、着目すべき弱乱流と渦乱流の遷移領域で臨界平衡の理論と相いれない大きな粘性散逸が出現したため、臨界平衡の予測するエネルギーフラックスは得られなかった。本年度の大規模数値シミュレーションによって、少なくとも回転乱流では、この遷移領域の大きな粘性散逸は数値計算の規模によることを示した。また、本年度行った2次元モデルの数値計算において、臨界平衡の予測するエネルギーフラックスが得られたことは、計算の規模が十分大きければ、回転乱流や成層乱流など3次元の非等方乱流においても、臨界平衡の理論と合致するエネルギーフラックスが得られることを示している。計算の規模が最大の困難であることが明らかになったので、次年度は、回転乱流や成層乱流において必要な大規模数値シミュレーションを実行することを徹底する。大規模数値シミュレーションが実行できれば、それぞれの系における大規模構造・波動・渦の間のエネルギー輸送を定量的に評価し、結果をまとめる。 また、回転乱流においては、慣性波乱流の共鳴相互作用によるエネルギー輸送の指向性が非常に高く、時間スケールによる大規模構造・波動・渦の波数領域の同定が必ずしも適切でないことがわかったため、より適切な大規模構造・波動・渦の定義を行う。 並行して、種々の2次元モデルでのエネルギーフラックスベクトルの普遍性を調べる。本年度は、2次元ベータ平面乱流で臨界平衡の予測するエネルギーフラックスベクトルが得られたが、これを修正Charney-Hasegawa-Mimaモデルや2次元非線形シュレディンガー方程式などでエネルギーフラックスベクトルを定量的に求め、臨界平衡との整合性を調べる。これによって、強弱乱流の共存状態の生成維持機構を解明する。
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Causes of Carryover |
進捗状況にも書いたように、本年度は相対的に規模の小さい数値シミュレーションから、段階的に計算規模を大きくし、可能な限り短い計算時間で大規模な回転乱流の統計的定常状態を得ることを試みてきた。相対的に規模の小さい数値シミュレーションに想定より長時間を要したため、本年度の計算機使用料は当初の予定より少なくなった。同時に、保存すべきデータも小さくなり、本年度時点ではデータストレージの購入する必要がなくなった。したがって、申請時に想定していた大規模数値シミュレーションの実行に伴う計算機使用料とデータストレージの購入を次年度以降に先送りした。 また、COVID-19の拡大により、日本物理学会第75回年次大会の現地開催が中止されるなど、予定していた3件の出張が急遽取りやめとなった。次年度は多くの会議の現地開催が中止されることが予想されるが、オンライン開催の会議も多く、この参加登録費として使用する。 また、次年度から研究代表者の所属が変わるため、緊急事態宣言解除後の研究打ち合わせのための旅費として使用する。
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