2019 Fiscal Year Research-status Report
Phonon blocking due to geometrically-engineered self-energy
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18K03977
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
服部 公則 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80228486)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フォノン / 熱輸送 / 熱コンダクタンス |
Outline of Annual Research Achievements |
熱電変換の新しいプラットフォームとして、ナノワイヤに代表されるメゾススコピック・ナノ構造が注目されている。メゾスコピック系においては、フォノンの熱コンダクタンスは低温下で量子化される。この量子化は運動量保存に保護されたmasslessなGoldstone modeに起因しており、不純物によるフォノンの弾性散乱や多フォノンが関与する非弾性散乱とは本質的に無縁である。系内部の熱伝導が系両端の温度差の形成を阻害するため、熱電変換の効率は熱コンダクタンスに反比例する。つまり、フォノン輸送の普遍的量子化は、低温での熱電変換を妨げる原理的要因となる。本研究では、自己エネルギーの幾何学的制御によるフォノン輸送のブロッキングを提案し、massless modeによる熱輸送が系の幾何学的デザインにより抑制可能であることを示した。具体的には、十分に大きなリードあるいはプローブを系に接続することで、自己エネルギーを介して系に人為的なブロードニングを誘発する。その結果として、通常はフォノン散乱にロバストな長波長モードを完全にブロックできる。2019年度には自己無撞着な仮想熱浴と局所的に接触した系における熱輸送の研究を遂行した。熱浴との接触は自己エネルギーを介してフォノン散乱と位相緩和に等価となる。この研究においては、線形な自己エネルギーでは全運動量保存が破られるためmassless modeは消失し熱力学的極限の熱伝導度は有限になるが、高次の自己エネルギーでは全運動量保存が維持されるためmassless modeが残存し熱伝導度はべき発散することが明らかにされた。この研究成果はKiminori Hattori and Miyuki Yoshikawa, Phys. Rev. E 99, 062104 (2019)に掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的であるフォノン輸送の幾何学的ブロッキングに関する理論解析と数値計算は順調に遂行されている。このことは、本研究成果がKiminori Hattori and Miyuki Yoshikawa, Phys. Rev. E 99, 062104 (2019)に掲載されたことからも裏付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もさらなる微視的洞察を得るべく、非平衡グリーン関数と量子ランジュバン方程式に基づく熱輸送の解析を進める。特に、自己無撞着な仮想熱浴と局所的に接触した系の熱伝導は興味深い。本研究で例証されたとおり、熱浴との接触は自己エネルギーを介してフォノン散乱と位相緩和に等価となる。制御可能な散乱・緩和機構の導入からは、熱輸送の微視的物理について根源的な知見が得られるものと期待される。重要な未解決問題の一つは、熱輸送の次元クロスオーバーである。古典系では、運動量を保存する低次元系でのみ異常輸送が発現し、高次元系では運動量保存によらず正常輸送が回復することが知られている。しかしながら、この定説は古典的分子動力学等による経験則に過ぎない。今後は自己無撞着熱浴解析を高次元系に拡張し、量子調和格子における熱輸送の次元クロスオーバーを定量的に解明していく計画である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、covid-19による納品遅延を避けるため備品の購入は見合わせ、消耗品等は他の財源(運営費交付金)で支出したために生じた。今年度には数値計算の効率化を図るため、パンデミックの沈静化を見極めた上で、ワークステーションとソフトウェアを購入予定である。
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