2018 Fiscal Year Research-status Report
超音波の非線形伝搬に伴う広帯域化を利用したマイクロホン簡易感度校正の実現
Project/Area Number |
18K04010
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
鎌倉 友男 電気通信大学, 産学官連携センター, 客員教授 (50109279)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非線形音響 / 高調波ひずみ / 音圧校正 / 高周波マイクロホン |
Outline of Annual Research Achievements |
高周波数で大きな音圧の超音波ほど,必然的に発生する空気の非線形性に起因して伝搬とともに顕著な波形歪みが起こり,多くの高調波が発生する。このことは,放射した超音波の周波数帯域が高域側に広がる,すなわち広帯域化することを意味する。一方で,波形歪みの時間発展は非線形波動モデルとして定式化され,任意の位置の音圧が正確に数値予測できる環境にある。今まで解明されてきた波形歪みに関する物理現象と数値予測モデル式を適切に融合すれば,数百kHzを超える広帯域内で,マイクロホンの音圧感度を定めることができる。 本研究の目標は,既存の線形技術に基づいたマイクロホンに対する200 kHz付近までの音圧校正周波数の上限を,上記の非線形音響技術で大幅に拡大し,1 MHz 付近まで対応可能な高周波帯簡易音圧校正法を樹立し,最終的には精密(絶対)校正の確立への礎になるための基礎資料を得ることにある。初年度においては,まずはこの校正システムの構築から始める。すなわち,いままで一通りの感度校正を行うのに2時間ほど要していた。計測時間が長いと室内温度や湿度の気象条件が変わり,これが音波吸収を介して高調波成分に対する測定値および理論予測値に影響し,理論予測値が測定時の音圧に必ずしも対応しなくなる。計測に要する時間の多くは,理論計算時間と測定データの目視による読み取りにある。特に後者はデータの読み違えの要因になる。そこで,データ収集システムの見直し(主に,高性能デジタルオシロスコープの導入)と高調波の理論予測値に対するプログラミングの改良で一連の高調波に対する音圧測定が少なくとも30分以内で終えられるように再構築を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画は,研究実績の概要で述べたように,今までの簡易音圧校正のシステムの問題点の見直し,特に測定時間の短縮化のためのシステム構築を行うことである。まずは,8ビットの分解能であり周波数スペクトル成分のPCとのデータ伝送に難があったデジタルオシロスコープを,高分解能な12ビットでしかもPCとのデータのやり取りが高速で行える機種を変更した。また,波形ひずみの理論予測値のための数値計算コードを,測定に使うPC内で高速に計算できるように見直し,音圧の基本波成分から第15次高調波成分までおよそ10秒で実行できる環境に整えた。そして,400 kHzの高周波まで受音可能なセルラーポリプロピレンマイクロホン(試作品)に対する音圧感度測定を試みた。その結果,上記の2つのシステム改善によって,今まで2時間ほどかかっていた計測が30分以内で測定を終えることができた。以上の実施経過から,当初の計画通り研究がおおむね進んでいると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の音圧感度校正についても,他の校正・標準化問題と同様に,測定データに対する信頼性やトレーサビリティが要求される。ここで提案している簡易校正法は,精度よく音圧校正されたマイクロホンを利用して基本波および第2高調波の音圧を求め,それをもとに高次高調波の音圧成分を理論予測する点から,広帯域にマイクロホンの音圧感度が容易に得られるという特徴がある。一方で,基本波と第2高調波の音圧予測にずれが生ずると高次高調波の校正値に誤差が生ずるという欠点もある。この意味では,本校正手法は1次というよりは2次校正と位置付けられる。いずれにしても,測定した校正データに信頼性があるかは,他の校正法で行って得たデータと本手法で得た測定データを比較することで対処できる。本年度の研究課題は,一般に1次校正法として精度が保証されている相互校正法を利用して,本研究課題で提案している高調波校正法で得た感度測定データとの比較を行い,精度が保たれているかを確認することとしている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(残高)が1,302円であり,ほぼ使用計画通りと理解している。
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