2020 Fiscal Year Research-status Report
超音波の非線形伝搬に伴う広帯域化を利用したマイクロホン簡易感度校正の実現
Project/Area Number |
18K04010
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
鎌倉 友男 電気通信大学, 産学官連携センター, 客員教授 (50109279)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セルラポリプロピレン / 圧電性 / 超音波 / マイクロホン / 高周波 / 非線形音響 / 高調波 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は新素材セルラポリプロピレン(Cellular polypropylene,略してCPP)の圧電性に注目し,この素材を用いて高周波受信に特化したマイクロホンを試作している。また同時に,このマイクロホンの音圧感度を測定する一案として,空気の非線形性を利用した簡易計測法の「非線形高調波法(Nonlinear harmonics calibration method )」を提案し,この手法の確立に取り組んできている。非線形高調波法は基本的には高調波成分が観測できるまで,具体的には1MHz付近までの音圧感度の取得が可能である。このことを実証することを含め,CPPマイクロホンの音圧感度評価に非線形高調波法を適用し,従来の精密音場計測用コンデンサマイクロホンの感度限界150kHzであるのに対してそれを遙かに越え,400kHzほどの高域に達することを確認してきた。一方で,CPPフィルムは圧電高分子フィルムの代表であるPVDFと同様に柔軟性や可撓性に富む。この特徴に注目し,音場精密計測用として利用している市販の1/4インチや更に小口径の1/8インチカートリッジの金属振動膜をCPPフィルムに置き換え,しかもそのフィルムをカートリッジの背極に直付けしたマイクロホンの試作に挑戦してきた。そして,このようなカートリッジ型CPPマイクロホンにおいても,やはり400kHzまでの広帯域受信感度を確認した。なお,広帯域がゆえにマイクロホンとしての受信感度が低いという課題がある。この課題を解消するために,今までの受信回路を見直し,高入力インピーダンスの置き換えで従来よりも6~10dBの感度向上が見込めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者は高周波超音波の受信に特化したCPPマイクロホンの実用化を行っている。また同時に,マイクロホンの高周波における受信感度を測定するため,超音波の非線形伝搬に伴って必然的に発生する高次高調波を利用した「非線形高調波法」を提案している。いままでに,局所の音圧測定に適した市販の1/8インチコンデンサマイクロホンカートリッジに注目し,その金属振動膜の代わりにCPPフィルムに置き換えたマイクロホンを試作した。そして,非線形高調波法を適用してマイクロホンの音圧感度を測定し,400kHz付近までの高周波にわたって受信できることを示した。また,その感度は-100~-80 dB re 1V/Paであった。このCPPマイクロホンを20 kHzで駆動された強力集束音源の焦点に置き,振幅が70 kPaを越える正圧パルスと低い負圧のトラフを持つ典型的な非対称性の音圧波形を観測した。このような小口径で広帯域のマイクロホンは,集束音場の焦点という特異なスポット音圧を精度よく観測するのに適しているのみならず,そのスポット領域に発生する新規な非線形現象の発掘にも寄与すると思われる。一方で,広帯域受信がゆえにマイクロホンとしての音圧感度が低いという欠点がある。その理由の一つに,CPPフィルムの圧電性で生じた電荷変化を効率よく取り出すための次段プリアンプの入力インピーダンスが十分高くないことがあげられる。そこで,電子回路の観点からプリアンプを見直し,今までのFETから高入力オペアンプに交換することで従来よりも6~10dBの感度向上を確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
CPPマイクロホンは400kHz付近までの高周波帯超音波の受信に適している反面,受信感度が低いという欠点がある。そこで今後は,CPPフィルムの圧電性で生ずる電荷変化を無駄なく電気信号の変化として取り出す更なる高入力インピーダンス回路の見直しが更なる検討となる。一方で,提案の非線形高調波の音圧校正精度の評価も課題の一つである。もともと非線形高調波法は,超音波標準音源で得られた基本波と第2高調波あるいは第3高調波までの実験データ値と非線形伝搬モデル式から得られる理論値とを適切かつ量的に比較し,それら両者がよく一致する事実を出発点としている(1次感度校正)。この一致を条件に,およそ第10高調波までの音圧を理論予測して,その各高調波音圧値と校正対象とするマイクロホンからの出力電圧値とを各々対応させることで,基本波から第10高調波までという広い周波数帯域でマイクロホンの音圧校正ができることを導いている。この考えに基づき,非線形高調波法は2次校正と言われるゆえんであるが,校正法で重要な精度が果たしてどの程度かが最終的な課題となる。残りの研究期間において,基本波から第3高調波のみを利用した従来の1次感度校正の方法から,2周波数で標準超音波音源を駆動する多周波数の利用で,校正精度の向上を目指す予定である。
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Causes of Carryover |
実験を通してのデータ収集が本研究の主要なテーマであり,令和2年度は実験環境の不具合および社会的要請で十分行うことができなかった。令和3年度はこれらの不具合も解消される見込みであり,当初の予定通りの実験が実施できる状況にある。特に,マイクロホンの高入力プリアンプの実現と多周波数駆動用超音波標準音源の試作については準備が整っており,本研究の最終目標に向けて前進するのみである。
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