2019 Fiscal Year Research-status Report
同軸パイプ蓄冷器による極低温小型冷凍機の高効率化への挑戦
Project/Area Number |
18K04095
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Research Institution | National Institute of Technology(KOSEN), Oshima College |
Principal Investigator |
増山 新二 大島商船高等専門学校, 電子機械工学科, 教授 (00287591)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沼澤 健則 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, NIMS特別研究員 (30354319)
松本 宏一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10219496)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 極低温 / 小型冷凍機 / 蓄冷器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,超電導機器などにおける低温システムに必須な道具である極低温小型冷凍機の高性能化を目指し,電気エネルギーの利用効率を高めることを目的としている。目的を達成するために,小型冷凍機の心臓部とも言える「蓄冷器」部に,独自に開発中である「同軸パイプ蓄冷器構造」を適用し,その評価を行う。対象とする冷凍機は,普及している小型冷凍機の一つである,ギフォード・マクマホン (GM) 冷凍機であり,4 Kレベルでの高効率化を目指している。 この構造は,球径 0.2~0.3 mmの蓄冷材が充填してある2段目蓄冷器 (約50~4.2 Kの温度勾配を有する) の同軸方向に断熱性のパイプが挿入されたものである。代表者らが行っている数値解析によると,蓄冷器内の温度分布が起因するヘリウムガス物性のため,蓄冷器内のヘリウム流は,理想的な一次元流れではないと考えられている。そのヘリウムを整流する役割として,同軸パイプ構造が考案された。 蓄冷材には高温側から,Pb,HoCu2,Gd2O2S球を層状に充填することで4 Kレベルの冷凍能力が改善することが今までの研究成果から実証されている。そこで本年度は,それぞれの層に同軸パイプ構造を適用し性能評価を行った。使用された冷凍機は,コールドヘッドが1 W at 4 Kモデル,圧縮機は7.3 kW at 60 Hzの定格を持つ。昨年度の研究成果から,本圧縮機を使用することで冷凍能力を1.60から1.70 Wへ,6%向上できることが確認されている。 三種類の蓄冷材の各層へそれぞれ独立して同軸パイプ構造を適用した結果,Pb層では冷凍能力が1.70から1.79 Wへ,5%向上することが明らかとなった。一方,HoCu2層,Gd2O2S層に適用したところ能力向上効果は見られなかった。これは蓄冷器内部のヘリウム密度分布に依存したヘリウム流に大きな要因があると考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4 K小型冷凍機は二つの冷却ステージを持ち,1段目が300~約50 K,2段目が約50~4 Kの温度範囲を担当している。これらは,それぞれのステージ内に設置された蓄冷器により温度的に引継ぎが行われる。本研究において注目しているのは2段目蓄冷器であり,特に内部に充填される球状蓄冷材(Pb, HoCu2, Gd2OS2球が充填される)と,それと熱交換を行う高圧ヘリウムガスの振舞いに焦点が置かれている。 一次元の数値解析結果から,2段目蓄冷器の高温側と低温側では,ヘリウム密度に大きな差(大きな箇所では10倍以上)が生じており,低温側が全体的に大きいことが判明している。また,蓄冷器内はつねに同一の圧力に保たれた状態で圧力変化が行われる。これらの状態を考慮すると,密度の小さい高温側のヘリウムは,低温側と比較して大きな運動エネルギーが必要とされる。この運動エネルギーの差異のため,ヘリウム流が乱れた状態であることが予測され,Pb層>HoCu2層>Gd2O2S層,という大小関係が生じていると考えられる。 上記の大小関係を考慮し,蓄冷材各層へそれぞれ独立して同軸パイプ構造を適用した。Pb層へ適用した場合,5%の能力向上が確認でき,4.2 Kで1.79 Wの冷凍能力,1.8%のパーセントカルノー効率が達成された。一方,HoCu2層に適用した場合の冷凍能力は,三層構造と変わらない結果となった。またGd2O2S層に適用した場合,三層構造より若干の性能低下が見られた。 以上,Pb層の結果から,同軸パイプ構造の効果が実証されたとともに,Gd2O2S層の結果から,低温側のヘリウムは,必ずしもきれいな流れが必要ないのではないかという新たな問いも生まれた。今年度の成果は,今後の高性能4 K冷凍機の開発につながるものであると考えられる。したがって,進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
同軸パイプ構造に使用されているステンレスパイプは,その肉厚が0.5 mmであり,熱伝導損失の観点から,必ずしても最適であるとは言えない。したがって今年度は,さらに薄肉パイプによる効果を検討している。また,蓄冷器の数値解析も同時に進行する。 さらに,本年度の研究成果から,2段目蓄冷器低温側のヘリウム流の振舞いに,新たな問いが生まれた。この問いの解明は,必ずしも冷凍能力の向上に結び付かないかもしれない。しかしながら,これを解明することは,不明な部分が多い4 K蓄冷器の振舞いを一つでも明らかにするために必要であると考えられる。
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Causes of Carryover |
当該年度,冷凍機の冷媒に使用している高純度ヘリウムガスを消耗品として計上していたが,その消費が当初の予定より少なかった。このため残金が生じた。
次年度は,高純度ヘリウムガスを購入する予定である。
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