2018 Fiscal Year Research-status Report
ブラインド分離と機械学習を用いた騒音下での打音検査装置の研究開発
Project/Area Number |
18K04171
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
新田 益大 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (20453821)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラインド分離 / VARMA-ICA / 打音検査 / コンクリート / 時間周波数解析 / 卓越周波数 |
Outline of Annual Research Achievements |
老朽化を迎えた橋梁の近接目視・打音検査にドローンを活用することが期待されている.しかし,ローターは1メートルの距離で90デシベルに迫る騒音を発生させ,ハンマーによる打音が60デシベル程度の間欠音であるから,連続音であるローターブレード音に埋もれてしまい,信号分離が不可欠となる. まず,反響のある実験室内で,ラウドスピーカーを対向させ,一方からローターブレード音,他方から打音を再生して,対向させた2つの超指向性マイクロホンで干渉音を収録した.しかし,S/N比が大きいため,何ら特徴を観測することができなかった.この収録音に対して提案するブラインド分離アルゴリズムであるVARMA-ICAを適用したところ,分離パラメータに依存するものの,時間周波数解析結果(時間波形および周波数スペクトル)に打音の特徴を観測することができた. そこで最適なパラメータを求めるシミュレーションを行った.干渉音の分離では,自己回帰モデルの次数pと移動平均モデルの次数qが未知パラメータとなる.シミュレーションの結果,p=5,q=3の場合が最も分離性能が良いがことが分かった.しかし,移動平均項が含まれる場合,非線形推定となり分離に時間を要するので実用的ではない.このことを考慮し,q=0と固定して,再度,最適なpを求めたところ,p=6が最も適合することが分かった. つぎに,人工欠陥コンクリート標準供試体に対して各種球体落下試験を行い,打音と加速度の時間相関を調べた.欠陥部(異常部)では鋼球やセラミック球を落下させた場合,両者には相関があり,卓越周波数も一致することを確認した.一方,健全部では,鋼球の場合は相関が見られなかったが,セラミック球の場合は相関が見られた.ただし,卓越周波数は試行ごとに異なることが分かった.この結果より,健全部と異常部では明確な差が生じており,打音検査装置が開発可能なことが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,ドローンに点検ハンマーを模した打撃機構を搭載し,橋梁の張り出し床版のようなコンクリート面を走査しながら打音検査を行うことを想定している.しかし,実際には床版や周囲の桁などの影響で,打音はもとより,ローターブレード音も,複雑に反響しながらマイクロホンに収録されるためブラインド分離が適用可能であるかが問題であった. これに対し,反響のある室内での予備実験により,VARMA-ICAが適用可能で,しかも自己回帰モデルとして逆モデルが記述できることが分かったため,高速に信号分離が可能となる. また,人工欠陥コンクリート標準供試体に対して行ったセラミック球落下試験で,健全部と異常部で,打音の減衰波形と同一の加速度波形が得られることを確認した.これにより,従来,点検員がコンクリート表面の振動(加速度)も加味して検査を行っている,という推論が支持されたこととなり,打音検査装置の開発に,卓越周波数のみならず減衰率も評価指標に採用するとした,当初の立案どおりに研究が進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
打音検査の目的は,コンクリートの内部欠陥が,どのような深さ・厚さ・広さで,伸展しているのかを知ることである.初年度は人工欠陥コンクリート標準供試体という答えが分かっているコンクリートに対して基礎的なデータを収集したが,今後は,前述の3つのファクタを変化させた供試体を製作し,データを蓄積していく必要がある.そのため研究分担者として人工欠陥コンクリートの製作実績がある者を追加した. また,減衰率が評価指標として有用であるとの結果が得られたが,実際の打音信号には,うなりを伴う減衰波形もあり,周波数の隣接した波形となっていた.研究代表者は純粋な減衰正弦波の同定法を提案しているが,これが実問題に適用可能かを調査する必要がある. さらに,周波数分布(卓越周波数)と減衰率を訓練データとしたとき,正答率の高い学習器を構築することが喫緊の課題であり,その目的のために,既にライブラリとして提供されている機械学習のプログラムでシミュレーションを行っていく.
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