2019 Fiscal Year Research-status Report
無限次元性を失わない近似モデルに基づく液体ダイナミクス制御論
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18K04195
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
椿野 大輔 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (00612813)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 制御工学 / PDE-ODE カスケードモデル / 近似偏微分方程式モデル / スロッシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,容器内の液体振動であるスロッシングを主な対象として,近似的な偏微分方程式モデルに基づいた液体運動の制御系設計法と状態推定法を確立することを目的としている.本年度(2019年度)に得られた成果は,(1) 容器とスロッシングの同時安定化の手法としての PDE (Partial Differential Equation) フォワーディング法の定式化と,(2) 3次元円筒容器に対する壁面における波高からの内部波面形状推定に関する基本的な知見の取得である. まず(1)について説明する.容器内の液面を制御する際に,容器の運動を無視することはできない.本研究においては,液体の運動は境界に制御力をもつ波動方程式によってモデル化さる.この制御力は常微分方程式としての容器の運動モデルにも現れる.すなわち,異なる種類の方程式でモデル化される二つの対象を一つの制御入力で同時に安定化する必要がある.このような制御問題に対して,非線形制御法の一つであるフォワーディング法の考え方を利用した PDE フォワーディング法を提案し,設計論を定式化した.さらに,スロッシングの制御問題だけではなく,時間遅れのあるシステムや熱方程式と常微分方程式の縦列結合系の安定化への有効性も示した. 次に(2)について,昨年度までは同様な問題を矩形容器に対して考えていたが,より現実的な容器を考えるために円筒容器を取り上げた.壁面での波高から内部の液面分布を推定するオブザーバ設計を行った.本研究でのアプローチでは,運動モデルは極座標上の波動方程式となる.円周方向のみに Fourier 展開することで,無限個の偏微分方程式に分解し,バックステッピング法を適用した.この手法は,設計をある偏微分方程式の求解に帰着させるものであるが,極における境界条件をモードの次数に応じて適切なものを選ぶ必要があることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近似偏微分方程式モデルと常微分方程式モデルの結合系に対する,PDEフォワーディング法の定式化に関して,多くの成果と知見が得られた.これは,もともと本研究課題が目指していたスロッシングと容器の運動の同時制御という枠組みを超えて,偏微分方程式と常微分方程式の結合系でモデル化されるシステムに対する新たな制御系設計論となっている.このような成果に結びつくことは,本研究課題の申請時には予想していなかった. また,円筒容器内の3次元スロッシングに対しては,スロッシングの近似モデルを円周方向のみ Fourier 級数展開し,無限個の偏微分方程式モデルで表現したのちに,バックステッピング法を用いて状態観測オブザーバを設計することはもともと計画していた.その際に,極における境界条件の取り扱いで問題が発生することはある程度予想していた.その取り扱いについて十分な知見が得られたことは大きな成果となった.発生する問題とその対応に関する知見は得られたため,今後は順調に進んでゆくものと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
つぎの年度は研究計画の最後の年度となるが,つぎのように研究を進めることを想定している.まず,非線形性を考慮したスロッシング制御について考察する.現在までの結果は微小振幅の過程のもとで得られる線形モデルに基づくものである.実際のスロッシングを考えると,有限振幅の非線形モデルに対して,制御則設計法や状態推定法を得ることが望ましい.これまでの結果が,非線形性を含む問題に対してどこまで有効であるかを考察する.この非線形モデルを考えることは,申請書記載の当初の計画から変更はない. 並行して,途中段階にある円筒容器内のスロッシングに対するオブザーバ設計論を完成させる.現在はバックステッピング法を適用した場合に,オブザーバゲインを与える偏微分方程式の境界条件の取り扱いについて知見が得られ,設計方法が得られた段階である.数値シミュレーションでの実装を試みているが,上記の方程式が一般的ではない空間領域上で定義されているため,数値計算上の困難さを生じさせている.フィルタや陰解法を用いるなど,安定した計算を可能とすることを目指す.また,現在のものでは壁面上の液位分布を観測後に Fourier 級数展開を行う必要がある.そのため,級数展開を伴わない手法についても考えたい.
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Causes of Carryover |
次年度使用額は,もともと2020年3月に予定されていた第7回制御部門マルチシンポジウムへ参加のための旅費に相当する.このシンポジウムは,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,2月末に急遽開催の中止が決定したものである.次年度の研究動向調査や研究発表のための旅費など同等な目的で使用する予定であるが,2020年度は講演会・シンポジウムの開催が中止されることや,オンラインで開催へ変更されることが多く予想されるため,使用計画の大きな変更が予想される.
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