2018 Fiscal Year Research-status Report
制御工学的手法を用いた心拍変動周波数解析の高速化と疲労度提示システムへの適用
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18K04219
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
沢口 義人 木更津工業高等専門学校, 電子制御工学科, 准教授 (50455119)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生体計測 / 心拍変動 / 不等間隔サンプリング / 状態空間フィルタ / 帯域パワー推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,心拍変動周波数解析を高速化し疲労度提示システムへの応用を図ることである.昨年度には,制御工学で広く用いられる状態空間法を活用して,不等間隔にサンプリングされた時系列に対して線形時不変フィルタを適用する手法を提案した.また提案手法による心拍変動周波数解析を試み,従来手法と比較した.以下,これらについて説明する. まず不等間隔時系列に対する線形時不変フィルタの適用法として,フィルタを連続時間の状態方程式で表現し,不等間隔時系列をサンプル点間で一次式等で補完した場合の状態推移を事前に解析的に求めておくことで,フィルタ出力を少ない演算で得る手法を提案した.一般的なディジタル信号処理でのフィルタリングでは等間隔時系列を零次ホールダで補完し,離散時間の伝達関数ないし状態方程式を作用させている.これに対し提案手法では,上記のように連続時間の状態空間表現に着目することで,不等間隔時系列に対しても同等のフィルタリングを実現した. 続いて提案手法による心拍変動周波数解析を試みた.心拍変動の周波数解析では,心拍変動の0.04-0.15Hzの帯域パワーであるLFや,0.15-0.4Hzの帯域パワーであるHFが評価指標として活用されている.従来はこれらの指標値の算出に際し,(A)不等間隔の心拍変動時系列をスプライン関数などで等間隔化して,高速フーリエ変換や自己回帰モデル,最大エントロピー法などを用いてパワースペクトル分布を推定し帯域パワーを求める手法や,(B)不等間隔の心拍変動時系列に対しLomb-Scargle法によりパワースペクトル分布を推定し帯域パワーを求める手法が用いられてきた.計算機実験で提案手法と従来手法を比較したところ,提案手法でもLFやHFを適切に算出でき,計算速度は従来手法(A)に比べ20倍以上,(B)に比べ1000倍以上の高速化を実現できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では平成30年度の実施項目として,不等間隔時系列に対する線形時不変フィルタの提案と,心拍変動時系列の周波数解析への応用におけるサンプル点間の補完法やパワー推定法の比較検討を挙げた.これらはおおむね達成でき,心拍変動周波数解析の従来手法と比べて十分な高速化を実現できることを示せた.さらに,総務省消防庁「消防防災科学技術研究推進制度」で採択された研究課題「消防活動時の心肺負荷状態推定手法の高度化とプロトタイプ計測器の開発」において,研究協力者として心拍変動時系列の周波数解析アルゴリズムを供用し,プロトタイプ計測器におけるオンラインでの心肺負荷指標算出を実現した.成果の発表は国内学会発表1件であり,国際学会での発表や学術論文の投稿について準備中である.以上より,おおむね順調に推移していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,おおむね当初の予定どおりに推進する.本年度には,心拍間隔の値をスマートフォン等に送信できる市販の心電測定装置(POLAR社 H10 心拍センサー)から得た測定値に対して提案アルゴリズムを適用するプログラムをスマートフォン上に実装し,オンライン解析を試みる.これと並行して,心拍間隔値のデータ欠損に対応する手法を検討する.このデータ欠損の問題は,昨年度に消防活動時の心肺負荷状態を推定するプロトタイプ計測器の開発に対して提案アルゴリズムを供用した際に指摘されたものである.この問題への対処法として,データ欠損が生じている場合には状態空間フィルタの状態方程式を切り替え,各状態値について振幅を維持しながら位相のみ変化するような状態推移をさせる方式を検討したい.これらのプログラム開発やアルゴリズム改良に際して生じる問題点を集約し,帯域フィルタの種類やサンプル時刻間の補間法,パワー推定式などについて再度検討する. 最終年度となる来年度には,指輪型ないし腕時計型のウェアラブル装置を試作して提案アルゴリズムを実装し,着用者へ疲労度指標を提示するシステムを構築する.この際,心拍間隔値は自作の心電測定装置または POLAR 社 H10 心拍センサーから得るものとする.そして研究代表者所属機関の学生を中心として,多人数を対象として開発システムの実証試験を実施し,提案アルゴリズムの有効性や生体情報提示の有用性などを検証して,さらなる改善を図る.
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Causes of Carryover |
共同研究者として参画している研究課題が総務省消防庁「消防防災科学技術研究推進制度」に採択され,当該年度と次年度の2ヶ年にわたり助成を受けることとなった.生体測定用電極や試作測定装置材料について,そちらの助成金で購入したため,当該年度の物品費が当初予定よりも少ない額となった.また,国際会議での発表や研究補助者の手配について都合がつかず,旅費や謝金等の支払いも予定額を下回った. これにより生じた次年度使用額を旅費や論文投稿料に充てて,当初計画よりも成果発表や論文投稿の回数を増やすとともに,物品費や謝金等として活用して,当初の予定よりも信頼性が高い通信回線を利用するために物品購入やプログラム開発を進めることとしたい.
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Research Products
(1 results)