2018 Fiscal Year Research-status Report
遅延エトリンガイト生成によるコンクリートのひび割れメカニズムと構造性能の関連評価
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18K04299
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 浩嗣 東京大学, 生産技術研究所, 特任講師 (10573660)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コンクリート / 遅延エトリンガイト生成 / 構造性能 / 発生メカニズム / 構造実験 / 数値解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、実構造物に対する実験的検討と、材料レベルでの解析的検討を主に行った。 実構造物に対する実験的検討では、インド鉄道の遅延エトリンガイト生成(以下、DEF)が生じたプレストレストコンクリート(以下、PC)マクラギを対象とした。PCマクラギからコアコンクリートを採取し、電子顕微鏡による微細構造分析を行うとともに、超音波試験による非破壊検査と載荷試験による力学性能の調査を行った。その結果、骨材周囲に形成されたギャップ内にエトリンガイトの結晶が観察され、DEFの典型的な症状が認められた。また、超音波試験と載荷試験の結果、DEFの症状が深刻であるほど、コンクリートの動弾性係数、静弾性係数、圧縮強度が低下することが明らかになった。さらに、構造レベルでの検討として、実PCマクラギの載荷試験を行った。その結果、DEFの症状が深刻であるほど、曲げ耐力、せん断耐力等の構造性能が低下することが明らかになった。 材料レベルでの解析的検討では、DEFによるひび割れ発生メカニズムと材料特性への影響を明らかにすることを目的として、剛体ばねモデルによる数値解析を行った。比較対象として、アルカリシリカ反応(以下、ASR)を模擬したケースや、DEFとASRが同時に発生したケースを併せて実施し、パラメータとして膨張ひずみの空間的分布を設定した。その結果、ペースト部のみが膨張する場合でも、膨張ひずみが空間的に不均一に生じれば、巨視的なひび割れが発生することが明らかになった。また、膨張後に圧縮載荷を行ったところ、圧縮強度や静弾性係数の変化は劣化種類や膨張ひずみの分布によらず、ある幅以上のひび割れの総数で一意的に表すことができることが明らかになった。これは、構造レベルでの解析的検討を行うために必要な、コンクリートの構成モデルを構築するにあたって極めて重要な知見であり、今後の研究の発展が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目的はDEFが生じたコンクリート構造物の構造性能を明らかにすることであるが、そのためにまず必要なことは、構造性能が具体的にどの程度低下するかという実証結果、今後の構造解析に必要となる材料レベルでのひび割れ発生メカニズムの理解、力学性能の把握、モデル化のための影響因子の整理、であった。平成30年度に行った検討により、これらの大部分が達成されたといってよい。PCマクラギから採取したコア試験体の調査や載荷試験により、材料特性、構造性能がDEFによりどの程度の影響を受けるかを、具体的に数字で示すことができた。また、劣化種類と膨張ひずみの空間的分布をパラメータとした材料レベルにおける解析的検討では、膨張ひずみの分布により内部と外部のひび割れパターンが異なることを、世界に先駆けて示した。これは、外面のひび割れパターンを主な情報源とする既設構造物に対する一般的な目視点検において、点検結果の評価方法を考えるにあたり、大きく貢献し得る成果であると考えている。また、膨張ひずみ導入後に行った載荷シミュレーションにより、劣化種類や膨張ひずみの空間的分布の差異にかかわらず、材料の力学特性は、ある幅以上のひび割れの総数により一意的に表されることを世界で初めて示した。これは、ひび割れの総数がマクロな材料挙動の指標になり得ることを意味しており、今後、本研究で実施する構造解析に必要な材料の構成モデルを構築するにあたって、極めて重要な知見となった。 以上のことから、平成30年度の進捗状況を「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度に行った解析的検討で得られた成果については、2019年4月現在、国際ジャーナルへの投稿論文を準備中である。H31年度の前半には投稿する予定である。研究代表者は2019年4月から北海道大学に異動したが、研究を遂行するための環境については、さほど障害はないと考えている。構造実験のための載荷試験装置や環境制御室等、基本的な設備はすでに整っており、研究代表者が過去に在籍していたことから、使用方法等を熟知しているためである。 今後の内容としては、「①リング型供試体を用いたDEF発生メカニズムの解明」、「②DEFがコンクリート桁のせん断破壊挙動に及ぼす影響の解明」、の2項目を主眼として検討を進める予定である。DEF発生のメカニズムについては、骨材周囲にエトリンガイトが生成され、界面で膨張圧が作用するとする「結晶成長圧説」と、骨材周囲のペースト部が膨張するとする「ペースト膨張説」の2つが提唱されているが、結論はいまだ出ていない。この議論に終止符を打つべく、本研究ではリング型供試体を用いた実験を行う。具体的には、円筒型の模擬骨材の周囲にセメントペーストをリング型に打設し、模擬骨材に生じるひずみを測定する。「結晶成長圧説」と「ペースト膨張説」で、骨材に生じるひずみの方向が異なることをすでに予備解析で確認しており、これを実験により実証することが出来れば、DEF発生メカニズムの解明に大きく貢献することができると考えている。平成30年度はインド鉄道のマクラギを対象として構造性能を検討したが、今後は実験室内で試験体を製作し、構造実験を試みる。これにより、DEF発生のプロセスで変形やひび割れがどのように生じるかを明らかにし、構造性能としてせん断挙動を検討する。せん断挙動をはじめの対象としたのは、DEFによるコンクリート自体の材料特性の変化が、最も顕著に表れると考えられるためである。
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Causes of Carryover |
平成30年度に行った実験的検討では実PCマクラギを使用し、載荷装置もインド鉄道が保有するものを無償で使用することができたため、試験体の製作費や装置の使用料が発生しなかった。また、解析的検討では、既存の計算機を使うことができたため、新たに購入する費用は発生しなかった。以上の理由から、平成30年度の使用額は0円であった。 平成31年度は、研究代表者の所属機関が変更となったため、新たに購入する必要があるものがいくつかある。具体的には、実験や解析を遂行する大学院生が、測定やデータ分析のために使用するパソコン、DEF促進試験を行うための硫酸塩物質、温度制御用ヒーター等である。平成30年度に繰り越した100万円は、新天地で研究を再開するにあたって必要な、これらの基本的な設備を整備するために使用する予定である。
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Research Products
(3 results)