2018 Fiscal Year Research-status Report
河川・河口と沿岸海域の水理現象と地形・底質のマルチスケール相互作用系の解明
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18K04363
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
楳田 真也 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (30313688)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海岸工学 / 土砂動態 / 海浜変形 / 土砂管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
河川・河口と沿岸海域における水理現象と地形・底質輸送の基本特性を理解するため,(1)河川から供給される土砂の海岸での移動範囲に相当する沿岸セルにおける海岸流・沿岸流の流動特性に関する研究,(2)沿岸セルの境界部に位置する遠浅の砂浜海岸における波浪と長周期波の伝播・遡上特性に関する研究を行った. (1)加越沿岸域における広域の土砂輸送現象を引き起こす海岸流および海浜流の基本特性を明らかにするために,人工衛星観測データと風・波・潮位等の現地定期観測データを利用した流動パターンの抽出および沿岸流動の数値解析的検討を行った.観測データの分析から,日本海沖を北上する低気圧により発生した南西からの風の継続により,北上する吹送流が海岸線に平行に発生し,大規模な地衡流へと発達するとともに海岸で水位上昇が発生する流動構造,および北東からの風を受けて海岸付近は南西への沿岸流だが,数km沖合からは北東方向への海岸流が卓越する複雑な流動パターンを明らかにした.また,これらの沿岸流動を対象に数値解析を行い,海岸水位の上昇および濁水の沿岸分布状況を概ね再現できることを示した. (2)沿岸砂州の周期的沖向き移動に対応した汀線変動が見られる石川県北部加越海岸を対象に,砂州位置の変化と波の伝播・遡上特性との関係を解明するため,石川県北部加越海岸の過去5年間の岸沖断面地形や波浪観測データに基づき,波浪と長周期波の数値解析を行った.その結果,長周期波高が風波波高を上回る汀線付近において,砂州は長周期波を低減できることがわかった.砂州は波高 1~2 m 以上の侵食性の波の遡上を抑制し,波高 0.6 m 程度の堆積性の波の遡上を促進した.砂州の移動は汀線を平衡位置近傍で変動させ,汀線位置を安定化する働きがあることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の主要課題である広域流砂系の土砂動態特性を解明する上で重要な様々な時空間スケールの河川・海岸域の水理現象に着目して,(A)沿岸海域における海岸流・沿岸流の流動パターンに及ぼす海流・風・波浪の影響,(B)砂州海岸における風波と長周期波の伝播・遡上特性と汀線位置・砂州配置の周期的変化との関係,(C)河口と周辺海岸における季節的地形変化と河川から海岸に流出する土砂量推定,に関する研究を並行して進めた. (A)研究実績の概要(1)の数値解析より,加越海岸における海底勾配の異なる北部と南部の海岸における鉛直流動構造の特徴,金沢港周辺における沿岸流の回り込みと大規模渦の発生,および北部加越海岸の北端部における沿岸流の反転など,従来研究で推測されている広域漂砂移動パターンと整合する結果が得られた.また,風・波浪の強さや向きによって,北部加越海岸における沿岸流の強さや岸沖方向の範囲が変化しやすいことがわかった. (B)(2)の研究結果から,砂州の有無による砂浜への波の遡上高の変化,および砂州位置の周期的変化による波の遡上端の変動幅を推定した.それらの推定値は,測量記録から得られた砂州位置の変化に伴う汀線位置の変動幅と一致した.これらの変動幅は汀線の季節的変動幅と同程度であり,本海岸の沿岸砂州が汀線変化や波の遡上に与える影響は大きいことを定量的に示した. (C)河川・海岸域の広域流砂系の要となる河口域の土砂動態特性を明らかにするために,加越海岸の最大の土砂供給源である手取川の河口を対象に,地形・外力に関する種々の観測記録の分析および数値解析による詳細な検討を行った.洪水による中規模河床変動,導流堤間の砂州のフラッシュおよび河口テラスの形成等,当時の地形変化の主な特徴を精度良く再現することができた. 研究成果の一部は土木学会の研究発表会で発表するとともに,論文発表も実施した.
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Strategy for Future Research Activity |
河川・河口と沿岸海域における様々な時空間スケールの水理現象と地形・底質輸送過程に関する理解を深めるために,海岸への漂砂供給源となる河口と沿岸セルの末端部にある海岸を対象に研究をさらに進める.(D)冬期波浪による河口周辺域における地形変動と河川から海岸への年間の正味の土砂供給量の推定する.(E)海岸線が弓形で波・流れ等の自然外力の作用が沿岸方向に異なる海岸を対象に,汀線位置の様々な時間スケールでの変動特性および外力変動と海浜付近の波・流れの状態の関係を究明する. (D)波浪による河口テラスの消失と周辺海浜への土砂供給過程および気象・海象条件の変化による影響を明らかにする.洪水後の河口地形測量記録を利用して,夏・秋期の平均的な低波浪による河口テラス浅水深部の侵食,および冬期の高波浪によるテラス地形の消失とそれに伴う河口砂州の発達過程に関して,波・流れ・土砂輸送過程を考慮した数値解析を行う. (C)の洪水後のテラス地形を初期条件として利用して,洪水による河口砂州の侵食・河口テラスの形成から波浪によるテラス地形の消滅・河口砂州の形成までの一連の河口地形変化と外力変動の影響を検討し,河川から周辺海岸への土砂動態の基本特性を究明する. (E)侵食傾向が続く沿岸セル末端部の砂浜海岸における汀線位置の季節~10年程度の変動成分の抽出と外力変動との対応関係を既存の観測データ等を利用して分析する.汀線位置の時空間変化に拡散型方程式を適用して,岸沖方向と沿岸方向の漂砂に起因する汀線変動成分に分離して,汀線の各成分と波浪の関係を調べる.当該海岸は沿岸30km以上あり,緩やかに湾曲しているため,波浪・沿岸流などの外力の作用度合が沿岸方向に異なると予測される.そのため,付近の風・波の観測記録をベースに波浪・流況解析を実施し,汀線の沿岸方向の各区間の変動特性と外力変動との関係に着目した解析を実施する.
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Causes of Carryover |
当初計画していた必要物品より性能の高い新型の機器を低価格で購入することができたため(赤外線カメラ付きUVA). 同機器を使用した現地観測による取得データを増やすために必要な研究協力者への謝金として使用する予定である.
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