2020 Fiscal Year Research-status Report
循環とエクセルギー地産地消を可能にするバイオマス活用の研究
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18K04463
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
高橋 達 東海大学, 工学部, 教授 (50341475)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カン / 放射暖房 / バイオマス / エクセルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
中国東北地方の伝統的バイオマス利用放射暖房システムである床付けカンについて実測調査とエクセルギー解析を行い、熱・空気環境の実態と地域資源の有効な消費条件を見出した。以下が結論である。 1)外気温が5℃以下の気候で、ワラの燃焼のみで室温20~26℃を保ち、熱的不快が回避されている。厨房に機械換気装置はなくCO2濃度は最大で1000ppmになる。2)燃料にはワラを使用しており、住まい手が所有する田からの供給で、暖房用燃料の全量について地産地消が成立している。燃料の投入は1日2回(夏以外)、投入量は10~15kg/回である。過去に近隣で、燃料の投入量を誤って過大にしたことによる住宅の全焼事故があった。3)ワラ輸送のためのエクセルギー消費量は輸送距離を100kmから500kmに伸ばすと、エアコンから室内に供給される熱エネルギーとほぼ同量の0.4GJ/weekに増加する。他方、ワラの輸送距離が100km以下ではエクセルギー消費特性に差異は生じなかったことから、バイオマスエクセルギーの地採地消(消費を上回るエクセルギーの生産はありえないので、地産ではなく地域採取の地採)における資源輸送の範囲は距離100km以下と考える。4)バイオマス発電利用エアコン暖房における一次投入基準エクセルギー効率は、ワラの輸送距離1000 kmで発電効率が23 %の場合に0.107、輸送距離100 km・発電効率28 %の場合に0.151となり、燃料の輸送距離、発電効率によって値は変わっても、3つの暖房システム中最高になる。ただし、エアコン暖房のみが放射暖房効果がないためMRTが室空気温より3~4℃低く、他システムより窓付近のコールドドラフトの発生確率が高い。 農家による電力会社へのワラの売り渋りまで考慮に入れると、床付けカンを持ち上げカン暖房のように改善させて使用する方が実現性が高く、望ましい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、研究計画で掲げた二つの研究項目のうち、研究項目②各種エクセルギーの貯蔵・生成・消費の特性に着目した木質バイオマスの建材利用・熱利用に該当する「中国東北地方の住宅におけるバイオマス利用放射暖房システムである床付けカン」について実測調査とエクセルギー解析」について研究を推進し、その成果を日本建築学会環境系論文集に掲載させるに至った。 特に①中国東北地方で1000年以上にわたって実践されている放射暖房システム「カン」は、木質バイオマスよりもさらに安価に入手可能な農地バイオマスである稲ワラを燃料とする地域エクセルギーの地採地消を完全に実現したシステムであること、②ワラの輸送距離を100km以下に抑えることが地採地消たりえる条件であること、③現代技術であるバイオマス発電利用エアコンが最高効率を実現しつつも熱的快適性・燃料調達に問題があることという結論を得た点は、中国の伝統的具体例に限られてはいるが、本研究課題の解明目標である「エクセルギーの地産地消の条件」ついてかなりの部分を達成したと考えている。 なおかつ、研究成果を前述したように査読付き論文に掲載させているので、健全な批判をも踏まえた形での成果公開を果たしている。 以上の点から、おおむね順調に研究活動が進捗していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的は、①バイオマスの活用・循環のエントロピー理論による成立条件、②地域資源あるバイオマスのエクセルギー地採地消の成立条件の二つを解明することである。このうち目的①については、エントロピー理論による循環・活用の成立条件を解明する上で必要となるエントロピー解析手法のツールとして、組成が複雑なバイオマスの絶対エントロピーを高精度で推定する計算方法を導出するとともに、林地の光合成における物質収支と同量の物質収支となる木質バイオマス燃焼の物質収支を勘定することにより熱力学的物質循環のエントロピー流を解析可能とする閉鎖循環モデルを開発することができた。あるシステムが自系内の物質循環を駆使することによってエントロピーを廃棄する際に、そのシステムより「大きいシステム」がその廃棄エントロピーを受け止めて、エントロピー廃棄を可能にすることは、過年度の研究成果で明らかにしたところであり、物質循環の入れ子構造、システム間の共働(共生)によって各システムのエントロピー廃棄が可能になることが予想されるが、その成立条件の詳細についてはいまだ不明である。そこで研究目的①に対しては、エントロピー廃棄のためのシステム間共働と循環の入れ子構造に特に解析を行うことにより、バイオマスの活用・循環の熱力学的成立条件の導出を試みる。 研究目的②については過年度の研究活動により、地域やシステム仕様の制限はあるが、輸送によるエクセルギー消費と供給熱エクセルギーの関係など、バイオマス熱利用システムにおけるエクセルギーの地採地消の条件をある程度明らかにすることができた。さらに解明が必要な点は、エクセルギーの貯蔵の貯蔵である。バイオマスの化学エクセルギーと熱利用システムにおける熱エクセルギーの蓄積について、資源消費の縮小などの点から適正なエクセルギー貯蔵の条件について検討を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により学生の謝金を用いた補助業務が想定より短時間に留まった。次年度使用額(B-A)は2021年度の謝金にあてて、学生によるPC入力補助業務などにあてる。
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