2018 Fiscal Year Research-status Report
重文民家を住みつぎ居住文化を伝える次世代担い手支援の研究
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18K04481
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
碓田 智子 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (70273000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗本 康代 平安女学院大学, 国際観光学部, 准教授 (20410954)
中尾 七重 山形大学, 理学部, 研究員 (90409368)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 重文民家 / 世代継承 / 維持管理 / 住み継ぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、主に次の3点について研究を進めた。 (1)重文民家を住みつぐための共通課題の抽出のために、全国の個人所有重文民家を対象に郵送アンケート調査を実施し、138住宅から回答いただいた。現当主の年齢は、70歳代以上が全体の約51%を占め、60歳代を含めると約82%に達した。現当主の次に重文民家の維持管理を引継ぐ者の見通しがない住宅が20%近くあった。「後継者の見通しが立っていない」場合は約48%が現当主の代での公有化を検討していると回答した。調査結果より、後継者の見通しの違いによって、継承への検討や求める支援に違いがあることが明らかになった。後継者の見通しが立っていない重文民家が一定数あり、現当主の代での市町村への所有移管が必要と考えたり、すでに移管の検討を行なっているケ-スが出ている。後継者の見通しが立っていない場合でも、地域の行事を担ったり歴史敵資料等を保有していることから、住文化の喪失を防ぐ意義においても個人所有の継続の可能性を探る対応が必要と考えられた。調査結果の一部は、2019年度日本建築学会近畿支部研究報告会に投稿した。 (2)世代継承の課題を具体的に探るために、近畿圏の重文民家を中心に訪問調査を行なった。その結果、重文民家や管理棟に居住し、後継者も比較的近郊にいる場合、重文民家とは離れて日常は暮らし、重文民家に通いながら管理する場合など、重文民家と日常の居住地との関係性によって、維持管理の課題や継承の見通しに違いがあることが把握できた。これについては、さらに調査を進める必要がある。 (3)わが国の重文民家の世代継承支援の参考事例として、英国と日本の相続税制度の違い、次世代継承者への啓発活動や次世代継承者の組織などについて、資料収集を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個人所有重文民家の所有者を対象としたアンケ-ト調査の準備と実施、集計に多くの時間を要したが、基本的な分析を行なうところまでを終了し、日本建築学会近畿支部研究報告集に報告することができた。訪問調査については近畿圏の8住宅について実施し、聞き取り内容をまとめたが、さらなる追加調査と詳細分析が必要である。個人所有重文民家を支える保存会組織の把握については、アンケ-ト調査の一部に盛り込み、基本デ-タの把握を行なった。英国の歴史住宅の後継者への支援等については、翌年の訪問調査に向けての資料収集し準備を進めることができた。その一部を小冊子「重文民家をつなぐとは?」にまとめた。 以上、本年度は予定していた各調査を実施し、基礎デ-タの分析までは完了できた。詳細なデ-タ分析にはもう少し時間を要するが、研究課題は概ね順調に進展していると考える。また、重文民家や歴史的建造物に関わって、本研究課題の下敷きとなる関連研究成果についても学会等に報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に実施した調査デ-タの詳細分析を進めるとともに、訪問調査を補完していくことが課題となる。また、次世代継承支援については、わが国および英国での調査に向けての準備を早い時期から進める。具体的にはつぎの4点を進めていく。 (1)世代継承に関するアンケート調査の分析については、研究会を開いて検討しつつ分析結果のフォローアップを行う。 (2)訪問調査については、調査対象を広げて調査を継継するとともに、結果の考察を進める。 (3)文民家の担い手支援については、個人所有重文民家の保存会と市町村の文化財課等を対象に、支援の実態と今後の方向性についてヒアリング調査を行う。 (4)英国における歴史住宅の次世代支援の体制について調査を行ない、わが国の重文民家の次世代継承への展開を検討する。
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Causes of Carryover |
アンケ-ト調査結果の入力作業を学生補助者に依頼したが、当初の予定より費用がかからなかった。また、本年度は大阪近郊の重文民家を対象に訪問調査を行なったこと、全国重文民家の集いの総会が京都・大阪で開催されたため、旅費が少額となった。次年度に予定の英国への調査の航空運賃や宿泊費が当初の予定よりも高額になることがわかったため、本年度は消耗品の購入を控え、やや意図的に次年度へ研究費を残そうとした結果、本年度の予算は約40%残となった。翌年度は、英国への調査旅費、および遠方の重文民家の訪問調査旅費に多くの費用が必要と見込まれる。また、3年目に予定していた研究報告のシンポジウムのプレセミナ-を、英国の歴史住宅次世代の会代表者の来日に合わせて2020年2月に開催する計画である。このプレセミナ-の会費室利用料や通訳雇用費が必要となる。以上、2019年度の研究に必要な予算を、2018年度の残額と2019年度分助成金を合わせて使用することで対応する計画である。
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