2019 Fiscal Year Research-status Report
清末民国期の商会文書からみた近代的都市再編に関する研究
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18K04539
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
箕浦 永子 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (70567338)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 都市再編 / 都市整備 / インフラ / 公共事業 / 民間 / 商会 / 中華民国期 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、清末民国期において国家や地方政府が公共事業として推進する「伝統都市の近代的再編」に対して、民間の商業団体である「商会」がいかに関与し、どのような役割を担っていたのか、蘇州・上海・天津を例に解明することを目的としている。2年目である令和元年度は、各都市の商会文書や関係史料の読み取りを中心に行った。 蘇州については、まず社会公共事業に関連して「新生活運動」に着目した。新生活運動は、1934年から1949年まで行われた蒋介石が提唱した運動である。当時、ハード面の都市整備は推進されていたが、ソフト面の施策として人々の生活様式と社会倫理を改進しようとした運動であった。この新生活運動の活動を支えた蘇州商会の役割を明らかにし、都市整備にいかに寄与したのかを読み解いた。また、蘇州については「産業振興」における蘇州商会の役割についても着目し、伝統的都市空間のなかにいかに近代産業が組み込まれていったのか、綿業を事例に読み解きを進めた。 次に上海については、商会文書以外の関係史料を探す必要があったため、1932年から1937年まで上海で出版された《建築月刊》全29期と《中国建築》全5巻49期の影印本、1920年代から40年代までの上海の都市計画、建築士と建築活動、市政、交通企画、不動産業の建築コストなどを反映する計64種の文献の影印本を入手した。これによりハード面の都市整備について具体的な読み取りが可能となり、商会文書をもとに上海総商会の関与について紐解くことを進めた。 天津については、翻刻されている商会文書が蘇州と類似した分類による収録であるため、蘇州と比較しながら各文書の読み取りを進めた。その一方で、ハード面の都市整備に関する史料が不足しているため、現地で史料収集を行うことを予定していたが、新型コロナウィルスの世界的流行により出張が不可能となり課題として残った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象としている蘇州・上海・天津の各商会文書の入手を1年目に終えたため、2年目は商会文書と関係史料の読み取り作業を鋭意進めてきた。そのうえで、研究として各事象の検討を行い、論題を探ってきた。蘇州については、これまでに2つの観点を見出し、論題を立てることができている。上海については、まだ具体的な論題を立てるまでには至っていないが、新しく入手した関係史料の読み取りを進め、いくつかの観点を見出しつつある。天津については、商会文書の読み取りを進めることができたものの、関係史料の収集不足により論題を立てるまでに至っていない。以上のように、対象都市における商会文書等の史料の読み取りという基本的作業を着実に進めることができたため、おおむね順調に進展していると判断している。 研究成果としては、都市によって入手史料の傾向が異なるため焦点を当てる考察内容も異なってくるが、いくつかの論題における解明を通して、商会文書からみた近代的都市再編として結実させていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、商会文書等の史料の読み取りという基本的作業の成果をもとに、論題を立てて各事象についての解明を鋭意進めることを第一とする。 蘇州については、これまでに「新生活運動」「産業振興」の論題を見出したが、「公共衛生」「災害」「インフラ」などについても検討を進めている。上海については、都市計画や建設に関するハード面の読み取りは見通しが立っているが、入手した商会文書のなかに関係づけて検討できる観点が見出せていないため、これを引き続き探っていくとともに、新聞史料『申報』など他の史料も用いた解明を推進していく。天津については、商会文書のみの読み取りで論題を立てることも可能ではあるが、都市整備に関するハード面の史料などと合わせた検討が望ましいため史料収集の方法を探っていきたい。以上のように、商会文書から読み解いた事象をもとに客観的関係史料との照合・検証・考察を鋭意推進したうえで、研究成果を順次発表していくこととする。 本研究は、商会文書を中心とした史料の読み取りを主な研究方法としているものの、現地に赴いて遺構の調査や中国側研究者との研究協議も予定している。2020年1月から新型コロナウィルスが世界的に流行していることにより、その予定を実施する見通しが立てられないことが懸念される。今後の情勢を見極め、史料の読み取りのみで研究を推進していくことも視野に入れておかなければならないと考えている。
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Causes of Carryover |
史料収集と遺構調査のため蘇州・上海・天津への出張を予定していたが、新型コロナウィルスの世界的流行により中国への渡航が不可能となり、出張を次年度に延期せざるをえなかった。また、中国から取り寄せを依頼していた書籍が、同様の理由で物流が混乱していたため、今年度末までに納品されなかった。新型コロナウィルス問題が収束し、渡航が可能となれば現地調査を実施したいと考えている。
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