2019 Fiscal Year Research-status Report
Exorcism of the Bhutanese Buddhism and Black Wall Meditation Caves - Purification of Bonism Spirits and their Ceremony Places -
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18K04543
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Research Institution | Tottori University of Environmental Studies |
Principal Investigator |
浅川 滋男 公立鳥取環境大学, 環境学部, 教授 (90183730)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブータン / チベット仏教 / 後期密教 / 護法尊 / 憤怒尊 / 調伏 / ボン教 / ポプジカ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は8月に四川高原のギャンツェ・チベット族自治州でチベット仏教のストゥーパ、マニタイ、リンボン(石積)等を調査し、9月に第8次ブータン調査をおこなった。第8次調査の主フィールドはワンデュポデン県ポプジカであり、ガンテ寺、クブン寺、ケワン寺などで本堂の尊格配置、護法尊、ストゥーパなどについて調査した。とくにケワン寺は表向きニンマ派の仏寺だが、7世紀に起源が遡ると伝承されるボン教の寺院であり、本堂1・2階の中央間は仏像を安置するものの、2階の脇間はボン教の秘仏を祀る隠し部屋としている。中国の西蔵側には今もボン教寺院が散在するが、ブータンではここが唯一のボン教寺院である。 ガンテ大学の仏教大学長と2時間ばかり面談し、白壁と黒壁の洞穴での瞑想の違いや護法尊の由来をご教授いただいた。学長によれば、白(善)と黒(悪)は必ずしも対立する概念ではなく、表裏一体の関係にあるという。たとえば、人間の心の中にも白(善)と黒(悪)が同居しており、黒い部分を浄化することで一定の神格に再生しうる。これはボン教神霊を調伏した護法尊ではなく、いわゆる憤怒尊と係るであろう。 11月9日の建国70周年中国建築学会招聘講演(北京)で東大寺頭塔を復元的に論じる際、チベット密教のストゥーパの構造形式や境内との配置関係とも比較した。また、11月16日の中国科学技術学会招聘講演(福州)で木造建築の科学的年代測定について論じる際、ブータン各地に残る版築壁跡から採取した有機物の炭素14年代についても言及した。新年2月11日には、ブータンからカルマ・プンツォ博士(オクスフォード大学東洋学phd)を招聘してフォーラム「Human wellbeing from the view of Bhutanese Buddhism」を鳥取で開催する予定であったが、コロナ禍のため延期となった。今年度秋以降の再開で調整している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第8次調査では護法尊や憤怒尊の情報を多く得ることができ、ブータン唯一のボン教寺院「ケワン寺」を訪問することもできた。ドゥクパ・クンレーの伝承に因むファルス信仰についても、民家軒先につるす木彫ファルスが剣と複合的に表現されることを実際に観察した。この場合、ファルスは魔除け、剣は無知を切り裂く武器である。また、高名な僧侶から長時間のヒアリングもおこなえた。こうした成果を、中国の建築学会(北京)と科学技術史学会(福州)で発表することもできた。中国とブータンは国交がないけれども、西北雲南や四川高原の旧チベット領カム地方はブータンと宗教/文化的なつながりが強く、昨年度は四川高原のチベット族自治区を訪れ、多くの情報を収集できた。二つの学会の招聘講演でも、チベット仏教やブータンの文化遺産について強い関心を抱いていただいたと確信している。ブータンと中国領チベット仏教文化圏の宗教文化/文化遺産の調査と研究を十分遂行したと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、唯一残念だったのは、ブータン史・チベット仏教学の大家、ローペン・カルマ・プンツォ博士を囲むフォーラム「Human wellbeing from the view of Bhutanese Buddhism(ブータン仏教からみた人間の幸福)」が新型コロナウィルスのため中止となったことである。コロナ・ウィルスが蔓延し始めた2月初旬のことだが、こればかりは防ぎようのない事態であった。国際状況を鑑みながら今年度内での開催をいまいちど模索したい。カルマ博士とは、昨年9月の第8次ブータン調査の際、首都ティンプーで面談し、鳥取でのフォーラムをご快諾いただいたばかりか、今年度は博士の故郷である中央ブータンの廃寺にご案内いただき、発掘調査の実現可否を検討することになっていた。今の予算では発掘調査はとても無理だけれども、地形測量なら不可能ではなく、来年度より新しい研究費を申請してトレンチ掘りの調査を実施できればと考えていた。わたしたちの研究においては、ブータン地域の仏教僧院(ゴンパ)における本堂(ラカン)の成立時期を明らかにすることが重要な目的の一つである。これまで古材や版築壁跡内の有機物の放射性炭素年代により、国家形成期(17世紀)以前の15~16世紀に遡ることを予測しつつある。発掘調査を実現させることで、より実証的な成果をもたらしたいと考えている。ただし、コロナ禍が収束しない限り、実現はむつかしく、予算が執行できるか不安を抱えている。ブータンに近接する旧チベット領カム地方(西北雲南・四川高原)でも調査を継続したいが、こちらもコロナ禍の問題を抱えている。海外渡航が禁止される場合は、外国文献の翻訳や論文の執筆、報告書の編集に集中するしかないかもしれない。
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Causes of Carryover |
昨年度、ブータンからローペン・カルマ・プンツォ博士(ロデン財団理事長)を招聘し、「ブータン仏教からみた人間の幸福」と題するフォーラムを開催予定であったが、新型コロナ・ウィルス蔓延のため来日不能となり、その経費を使用できなくなった。フォーラムは中止ではなく、あくまで延期と考えており、今年度もういちど招聘を準備する。このため約35万円が繰り越しにせざるをえなくなった。今年度、コロナ禍のおさまることがなければ、英文専門書の翻訳もしくは報告書の編集に費用をあてようと思っているが、一年間の海外渡航禁止の場合は再繰り越しを希望する。
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Remarks |
上の連載は(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2099.html(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2118.html(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2100.htmlまで続く。このほか「四川高原-ストゥーパの旅」も5回連載した。
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Research Products
(15 results)