2018 Fiscal Year Research-status Report
水晶振動子を用いた金属ナノ粒子における水素吸蔵量の低温・高水素圧下超精密測定
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18K04683
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲垣 祐次 九州大学, 工学研究院, 助教 (10335458)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河江 達也 九州大学, 工学研究院, 准教授 (30253503)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水素吸蔵合金 / 機械的振動法 / 超伝導 / 水晶振動子 |
Outline of Annual Research Achievements |
水晶振動子は圧電現象に起因して機械的共振を示すが、その共振周波数は水晶に付着した物質の質量により変動する。従って極めて高感度な微量質量検出器として利用可能であり、水晶振動子マイクロバランス(以下QCM)として知られている。本研究課題における第一の目標はこのQCMを用いて様々な物質における様々な環境下での水素吸蔵特定を高精度に測定可能な手法の確立である。 採択を受けて、初年度は室温領域におけるQCMを用いた水素吸蔵・放出過程の精密な追跡と吸蔵量決定の為のテストを実施し、平行して低温での測定環境の整備に注力した。室温テストでは、極めて微量の試料でも高感度に水素吸蔵を検知できることが確認された。従来の水素吸蔵特性の評価法であるジーベルツ法と比べて1%以下の試料量で十分であり水素吸蔵物質の材料開発において極めて有効であると共に、極限環境下へのマウントも容易と考えられる。 また、本研究では水素吸蔵合金としてよく知られているパラジウム水素系に着目し、特に高水素濃度領域で現れる超伝導の機構解明にせまる研究を遂行することも大きな目標の一つとしている。パラジウム水素系における超伝導は1970年代における発見依頼、多くの研究者の注目を集めてきたものの、試料準備や測定の困難さから未解決の問題を多く含んだまま現在に至っている。 我々は低温200Kで水素吸蔵させたパラジウムにおいて磁化測定により超伝導状態を観測することに成功し、過去の報告で曖昧さの残されていた上部臨界磁場の温度依存性についても明確な結果を示した。成果の一部は既に学術雑誌で公表済みであり、また今後更に詳細な結果が得られるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は大きく分けてQCMの室温テスト、これと独立してパラジウム水素系の磁化測定による超伝導特性の解明の2つを柱に研究活動を実施してきた。QCMのテストに関しては、過去にVibrating wire法の開発で培った機械的振動法のノウハウを活かし、開発及びテストは順調に進んでいる。試料マウント法の最適化を次年度の前半で確立することでテストはほぼ完了するものと思われる。後者のパラジウム水素系超伝導の研究に関しては、こちらも従来から我々が実施している低温物性測定技術の下に高精度な磁化測定を実施した。得られた結果は過去の報告とほぼ一致しているが、加えて本測定で明らかになった点もいくつかある。中でも超伝導機構の議論で重要な上部臨界磁場の温度依存性は、従来、電気抵抗測定などから奇妙な直線的挙動が報告されていたが、我々の高精度な磁化測定により、従来型の超伝導に近い挙動が確認された。以上の結果は学術雑誌(JPSJ)や物理学会等の口頭発表で成果公表した。特に低温200Kでの詳細な水素吸蔵量とそれに伴う磁化変化のリアルタイムな追跡を明確に示した点で価値ある成果と言える。以上を初年度で達成し、進捗状況としてはおおむね順調といえると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
既に上で少し述べた次年度の方策はまず、QCMを用いた水素吸蔵・放出過程測定における、試料マウント法の確立である。現在、メッキによるマウントを計画しているが、加えて低温蒸着による試料マウントも同時に準備を進めている。試料蒸着から低温吸蔵まで大気曝露を経ずにクリーンな環境で一連の測定が実施可能であり、極めて有効な手段であると考えられる。 上記と平行してQCMテストの低温領域への拡張を進める。液体窒素温度領域までは簡便なプローブを作成して容易に拡張可能であり、テストを得たのち、液体ヘリウム温度領域への拡張を進める。当然、この温度領域は水素の液化温度を下回っており吸蔵特性の測定を目的にするのではなく、金属内水素の拡散過程に関する知見を得る為に極低温領域に拡張、測定を実施する。低温用プローブの開発は初年度から準備しており、過去の経験から問題なく進めることができると考えている。パラジウム水素系に関しては、単に上述した超伝導転移の観測の成功だけでなく、未公表の興味深い結果が既に得られており、この実験的確定を早急に進める。後半ではナノ粒子系での測定の実施、最終年度に向けてQCMと組み合わせたプローブの開発も行っていく方策である。
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Causes of Carryover |
寒剤消費量が当初の予定を上回った為、購入を予定していた測定機器の年度内での購入を見合わせた。次年度予算と合わせて購入を予定している。
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Research Products
(5 results)