2020 Fiscal Year Research-status Report
強誘電・強弾性逐次相転移における巨大粒度効果の機構解明とその制御および利用
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18K04694
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
川路 均 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (10214644)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 強誘電体結晶 / 巨大粒度効果 / 強弾性ドメイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、いくつかの強誘電体結晶において見られた通常では考えられないほどの大きなサイズを境に相転移が出現/消失する「巨大粒度効果」の機構を明らかにすることを目的としている。特にその強弾性ドメイン構造(強弾性ドメイン密度)を制御して、その相転移におよぼす効果を検証しようとするものである。現在、CsZnPO4、CsCoPO4、RbZnPO4、RbCoPO4などの化学的に高純度でかつ欠陥などの物理的純度の高い単結晶試料に加え、CsMnPO4の高い単結晶試料についても、フラックス法により合成し、研究を進めた。得られた試料については、粉末X線回折実験を行い、単相の高品質な試料が得られたことを確認し、1 mm3程度以上のサイズの単結晶および粉末試料について、その相転移挙動を示差走査熱量計によって調べている。Zn塩、Co塩については、CsZnPO4を除く試料でI-II相転移、II-III相転移に加えて、巨大サイズ効果を示すIII-IV相転移についても、サイズの大きい単結晶では観測される一方、粉末試料でIII-IV相転移は観測されず、巨大粒度効果が確認できた。他方、CsZnPO4については、III-IV相転移が単結晶および粉末試料ともに観測されず、大きな単結晶試料について、高温でのアニールあるいは相転移温度以下の低温でのアニール、相転移系列の多数回の経験などにより相転移を出現させるべく様々な検討を行なっているがこの相転移の出現に至っていない。光学顕微鏡観察を行ったところ、この単結晶試料では強弾性ドメインが観測されなかったことから、強弾性ドメイン構造の存在が巨大粒度効果に大きな影響を与えていることを示唆している。現在、巨大粒度効果が確認できたCsCoPO4、RbZnPO4およびRbCoPO4について、強弾性ドメイン密度を減らす方向での制御を行う実験を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定ではまず、(1)良質の単結晶試料の合成とドメイン密度の制御、(2)一軸応力下での相転移挙動の解明、(3)精密熱測定によるドメイン密度と相転移挙動の関連性の解明、(4)巨大粒度効果が期待される類似構造の酸化物の探査を行う予定であったが、(1)および(2)の点で進捗が遅れ、(3)については手つかずとなっていた。本年度は、(4) に関連して、新しくRbMnPO4の単結晶試料を合成し、その相転移挙動について調べたが、巨大粒度効果の観測が期待させる相転移系列ではなかった。CsZnPO4については、単結晶試料合成には成功しているものの、単結晶試料において予想される巨大サイズ効果を示すIII-IV相転移が観測できず、また、偏光顕微鏡観察により予想された強弾性ドメインが観測できなかったことで、当初の研究計画での「合成直後の単結晶試料において、大量の強弾性ドメイン壁が存在し、その密度を一軸応力を加えることによって減少させる」こととは逆に強弾性ドメイン密度を増やす方向での研究の必要が生じており、熱処理などの様々な方法を試しているが、依然としてIII-IV相転移の観察に至っていない。今後、CsCoPO4とRbZnPO4の混晶化について検討している。このように、当初計画から進捗が若干の遅れている。また、コロナ禍により実験上の制約が大きく、思ったように研究を進められていない。最終年度は、特に(3)の実施を行い研究を飛躍的に進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はこれまでに得られた成果を整理し、巨大粒度効果の起源を突きとめる方策を再検討し、新たな研究を展開することとしている。強弾性ドメイン構造の制御方法について再検討を行いつつ、機構解明のための解析を進めたい。さらに巨大粒度効果が期待される類似構造の酸化物の探査に重点を当てて研究を推進したい。特に強誘電ドメイン構造が相転移におよぼす影響についてモデルを構築し,巨大粒子効果を評価する方法の確立を目指す。得られた実験結果をもとに結晶中での巨大粒度効果の機構を解明し、この現象の相転移挙動の制御への可能性の検討を行う予定である。もしも、強誘電ドメイン構造が主要な原因であることが明らかになれば、異方的な歪みによる相転移挙動の制御について詳細に検討することができる。本研究で取り扱う系は自発歪が現われるもう1つの「強」物性である強弾性と強誘電が同時に現われる系であり、本研究で取り扱う巨大粒度効果は新しいマルチフェロイック現象の一つであるとも考えられる。このため、マルチフェロイックに関係した別の新しい現象が現われる可能性もあり、この点についても調査したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、特に低温での熱測定などの実施が困難となり、実験に用いる冷媒(液体ヘリウム)の購入量が少なく、物品費の使用が少なくなった。また、出張ができず、旅費の使用が不可能であった。最終年度は、頻繁に精密熱測定を行うため、これらを使用する予定である。
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