2018 Fiscal Year Research-status Report
水素含有希土類添加酸化物の発光特性の物理と新規シンチレータ材料応用への展開
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18K04747
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉野 正人 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10397466)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 蛍光体 / シンチレータ / 水素 / 希土類 / 酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究期間では、水素を含有した発光材料の特性評価、水素が発光特性へ与える影響のメカニズムのモデル化のために、以下の内容を実施した。 固相反応法を用い、発光中心となるPrを添加したBaZrO3を合成した。水素を含む雰囲気で焼成し、Prを3価へ還元した。また、水素を含有させるために、低価数イオンとしてY3+を選択し、これを添加した試料の合成も行なった。Y添加試料について、水素溶解処理を行い、水素の溶解を確認するため赤外吸収スペクトル測定を行った。また、圧力容器による水素溶解処理も行ない、高圧での水素溶解量の増加の可能性を示した。合成した試料の分光光度計、分子科学研究所極端紫外光研究施設のビームラインによる発光・吸収測定を行った。 BaZrO3とそれにYを添加したいずれの試料においても、Pr3+の4f-4f遷移による発光がみられ、これらの強度はYを添加すると増大するが、添加量を増すと発光強度が減少することがわかった。Pr添加BaZrO3の発光の報告例はなく、本研究によって初めて示した。低価数イオン添加による発光の増大は同じく立方晶であるSrTiO3でこれまでに示した結果と同様だが、高濃度での発光の減少について考察した。Y添加試料の低温(10K)での発光スペクトルにおいて、BaZrO3で報告されている欠陥準位からの発光が見られたことから、吸収したエネルギーがPr3+の準位だけでなく、Y3+添加で生成する酸素空孔に伴う欠陥準位へ移動しており、Y3+添加量増加に伴って欠陥準位へのエネルギー移動が増えたためPr3+の発光強度が減少したと考えた。また、水素を添加してもPr3+の発光は維持するが、ホストの吸収に近い波長域での励起による発光が減少していることから、伝導帯下部付近に形成すると考えられる水素添加による準位がホストの吸収またはホストからの緩和の過程に影響している可能性があると考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた水素を多く含有できる可能性のある試料の合成および評価を行い、水素の有無での発光、励起スペクトルの相違について一定の結果が得られ、この試料を2年度目以降に予定している解析および測定に用いる試料の候補としてあげられたため。一方で、水素添加量の定量測定は行えておらず、また、その他試料の合成および評価は行えていないため、可能であれば行ないたかった内容も残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
水素の添加量を定量的に評価するため、熱天秤による重量変化の測定を行う。この結果を用いて、水素添加量に伴う発光・励起スペクトル変化について調べ、初年度に得られたより詳細な結果を得る。 また、試料として、これまでと同様なペロブスカイト型酸化物でPr3+の5d-4f遷移の発光が報告されているLaScO3や、パイロクロア型構造で水素の溶解が知られている La2Zr2O7などについても候補とし、低価数イオンの添加、水素の溶解を行なって評価を行う。 これら各試料の量子効率測定を行い、その違いについてスペクトル測定の結果とあわせて考察する。なお、透過の吸収測定には単結晶試料を必要とするため、試料を選定して依頼作製を行う。 分光測定において比較すべき結果が得られた試料について以下のような測定・解析を検討する。(a)大強度陽子加速器施設にてミュオンスピン回転法によりミュオニウムの電子状態を調べ、水素の電子状態に対応する情報を得ることでホスト伝導帯下端からのドナー準位位置について調べる。(b)第一原理計算を用いて、ホスト酸化物中水素の安定位置および形成する欠陥準位、また希土類の4f-5d, 4f-4f 遷移エネルギーの計算を行う。(c)放射線励起による発光測定を行う。γ線による発光量が水素溶解前後の試料で分光測定から予測される変化量になっているか検証する。高速中性子励起では水素溶解前後でγ線励起の場合と比して大きな変化量であるかを検証する。(d)核融合科学研究所の低エネルギーイオンビーム装置により照射損傷の模擬試料を作製する。IR測定とTDS測定より水素溶解状態の評価、分光測定より構成元素の欠陥や水素のはじき出しの影響を調べる。(e)粒子・イオン輸送計算コードにより、高速中性子やイオンビームによってはじき出される水素量や損傷を受ける元素種を計算し、比較を行う。
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Causes of Carryover |
計画当初に購入を予定していた測定用備品でより有効に使用できる機器が見つかったために、機器の構成の変更を行った。その一部の購入を研究計画に差し支えないために2年度目へ変更したことと合わせて、予定使用額からの差異が生じた。また、学会発表の予定の一部を2年度目へ変更した。 研究計画は概ね順調に進んでおり、購入予定の機器および消耗品の購入と成果発表での支出を予定している。
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