2019 Fiscal Year Research-status Report
水素含有希土類添加酸化物の発光特性の物理と新規シンチレータ材料応用への展開
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18K04747
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉野 正人 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10397466)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 蛍光体 / シンチレータ / 水素 / 希土類 / 酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究期間では、前年度までに得られた実験試料による研究成果に基づいて、より水素を含有した発光材料の特性評価、水素が発光特性へ与える影響のメカニズムのモデル化を行うために必要と思われる性質をもった試料の選定とその合成、測定実験のため、以下の内容を実施した。 発光中心となるPr3+を添加したY3Al5O12の発光特性はすでに知られており、Pr3+の4f-5d遷移および4f-4f遷移による強い発光を示すが、低価数イオンの添加およびそれによる酸素空孔の形成、水素の溶解については報告がない。Al3+サイトへのZn2+の添加が考えられるが、固相反応による合成では単相試料が得られないことがわかった。Ga2O3へのZn2+添加の報告があることから、同じガーネット型酸化物であるY3Ga5O12に注目して、Ga3+サイトへのZn2+の添加を試み、15 mol%程度添加できることをはじめて示した。一方で、Y3Ga5O12をホストとするとPr3+の4f-5d遷移による発光は得られないが、Zn2+を添加した試料においてもその発光は得られないことがわかった。Y3Ga5O12と同様に比較的強い4f-4f発光は得られるため、研究対象の試料とはなるが、4f-5d遷移による発光を示す試料を検討するために、Y3Al5O12とY3Ga5O12の中間の組成であるY3Al5-xGaxO12へのZn2+の添加と発光特性を調べた。Y3Al2.5Ga2.5O12に対して5 mol%添加試料の合成が可能であることがわかり、Zn2+の添加の有無にかかわらず4f-5d遷移による発光を示すことがわかった。この試料への水素の溶解が可能であれば、4f-5d遷移および4f-4f遷移による発光への水素溶解の影響を調べることができると考えた。これら試料について、第一原理計算による欠陥形成エネルギーの評価などをはじめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Pr3+の4f-5d遷移および4f-4f遷移による発光を示し、また水素の溶解に必要な酸素空孔を形成するための低価数イオンの添加が可能な試料を得ることは、本研究において大変重要な課題のひとつであるため、この点で候補材料の合成が行え、遷移スペクトル測定結果が得られたことは本研究の進捗状況を進めたといえるため。また第一原理計算による電子状態の評価をはじめることができたため。一方で、計画から遅れている点として、これら試料および、すでに合成した試料と合成が見込まれる試料について、水素溶解の定量測定や放射線励起による発光スペクトルの測定などが着手できていない点が挙げられるため。
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Strategy for Future Research Activity |
水素の溶解が発光特性に与える影響を調べることを目的として、溶解量に伴う発光特性の変化を調べるために、熱天秤による重量変化によって水素溶解量測定および溶解量の制御を行う。新しく行ったZnを添加したY3(Al,Ga)5O12試料に加えて、同じくPr3+の4f-5d遷移による発光が見込まれるZnを添加したY3(Al, Sc)5O12およびLaScO3や、パイロクロア型構造で水素の溶解が知られているLa2Zr2O7などについても候補とし、低価数イオンの添加、水素の溶解を行なって評価を行う。 室温の紫外・可視域における分光測定において比較すべき結果が得られた試料について以下のような測定・解析を検討する。(a)放射光施設においてエネルギーの高い真空紫外光から可視域までの励起による極低温での遷移スペクトルを調べ、水素の溶解が遷移過程、電子状態にあたえる影響について考察する。(b)第一原理計算を用いて、ホスト酸化物中水素の安定位置および形成する欠陥準位、また酸素空孔の影響についても調べ、希土類の4f-5d, 4f-4f 遷移エネルギーの計算を行う。(c)放射線励起による発光測定を行う。γ線による発光量が水素溶解前後の試料で(a)の分光測定から予測される変化となるか調べる。高速中性子励起では水素溶解前後でγ線励起の場合と比較することで水素の存在による変化であるかを調べる。以上をまとめて、水素が発光特性へ与える影響のメカニズムについて考察する。
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Causes of Carryover |
年度当初に購入を予定していた測定用器具より有効に使用できる器具が見つかったために、構成の変更を行い、予定使用額からの差異が生じた。また、学会発表の予定の一部を次年度へ変更した。 研究計画はやや遅れがあるものの進展しており、物品の購入と成果発表での支出を予定している。
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