2019 Fiscal Year Research-status Report
ナノスケールマーキングによる局所塑性ひずみの統計的評価法の確立
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18K04751
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森川 龍哉 九州大学, 工学研究院, 助教 (00274506)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 將己 九州大学, 工学研究院, 教授 (40452809)
奥山 彫夢 木更津工業高等専門学校, 電子制御工学科, 助教 (50804655)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 結晶性材料 / 相当塑性ひずみ / 構造用金属材料 / 局所ひずみ分布 / 力学物性 / 力学的応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
構造用材料は弾性限や強度といったマクロ力学特性により評価され,その定量的数値を基に構造設計が行われる.不測の状況下での建物や車輌等の倒壊や破壊から人命を守るという観点から,材料の変形に対する抵抗の増加や塑性変形限界を越えた状態での壊れ難さといった動的な材料特性の向上が急務である.金属材料は結晶粒微細化や母相への硬質相の分散等の内部組織制御により強度を変化させ得る.これは材料内部を不均一とすることで変形中の結晶内部に不均一変形状態をもたらし,ひずみの勾配を生じさせる強化原理に基づく.しかし,結晶中におけるひずみ勾配の過剰な増大はむしろ破壊の起点を形成させることに繋がる.すなわち,材料中の変形の不均一は強化と弱化の相反する材料特性を齎す.そこで,これを制御する鍵は「不均一変形状態の定量的把握」であると言える.本研究では,ナノスケールオーダーのマーキング法を用いて微小領域における塑性変形状態を把握するとともに,それを局所ひずみ分布として数値化し,マクロ材料全体からのビッグデータ取得の手段へと拡張することで,複雑な塑性変形挙動を統括的に理解し,特に構造用として優れた材料の開発へ向けた指針構築を目指す. 昨年度は,深海底敷設用のラインパイプを構成する材料を想定し,荷重反転に伴う降伏応力低下現象に及ぼす材料内部の塑性変形状態の影響を検討し,局所変形領域において荷重反転に伴いひずみが回復するという特異な現象を発見した.本年度は,さらに多くのデータを得ることでひずみの回復現象の程度が,当初与えたひずみ量に依存する傾向を明らかにした.一方,新たに,自動車用マルテンサイト材料について,通常では相反する強度と延性の発現が,ある内部組織状態では強度を変化させても延性が保たれる現象を見出し,局所ひずみとの関係を検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の研究協力者と議論を進め,塑性変形した材料内部に顕著な変形の不均一が生じる材料として,ひとまず,フェライトとベイナイトといった内部組織の異なる相を含む多相材料を供試材とした.この材料において,巨視的な力学的応答と微小領域の塑性変形状態との関連を明確に結びつけるため,電子線リソグラフィを用いた微細マーカー法を活用することで,マクロな力学応答を数値化すると共に微小領域のひずみ分布を得た.この際,昨年度以降の目標としていた,より広範囲への微細マーカー付与については,試験片のうち塑性変形が発現する領域全てにおいてマーキングを可能とする手法を見出すことができた.この手法を用い,一昨年度と同様,フェライト-ベイナイト鋼では荷重反転による降伏応力低下現象が顕著に発生すること,また,この負荷応力の反転に伴い,材料内部で一旦局所的に顕著な塑性変形の起こった領域に優先的にひずみの回復が起こることが見いだされた.昨年度はさらに,荷重反転前の最初の変形量を変化させ,応力低下現象と局所変形挙動との関連を調べた.その結果,当初の変形量を大きくすると応力低下の程度が緩和され,実用的には好ましいマクロ変形挙動を示すこと,また,この現象に伴って,最初に優先的に局所変形した箇所でもひずみの回復が十分に発生しない箇所があること,さらに,荷重反転時にこの方向の変位を補償する局所変形が新たに発生していることが明らかとなった. 一方,昨年度より新たに,鉄鋼材料の中でも組織が最も細かく不均一に発達するマルテンサイト鋼を用いて,巨視的な力学的応答と微小領域の塑性変形挙動との関連の検討を始め,熱処理により得た特定の組織状態では,通常は相反する性質を持つ強度と延性のうち,強度を変化させても延性が保たれる現象が見い出された.この現象に伴う局所変形挙動の特徴を現在検討中である.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は引き続き,巨視的力学特性と微小領域の局所変形挙動との関連を検討するが,統計的に優位なデータを取得するため,多くの測定点を一度に捉える観察手法の確立を進める.この試みにより,得られた局所ひずみデータの具体的な数学的処理法について検討を進める.ビッグデータの処理法として,得られた現象に及ぼす要因分析をクラスター解析する方法があり,本研究への応用を検討する.このような手法を,これまで対象としてきたフェライト-ベイナイト鋼およびマルテンサイト鋼における局所ひずみ分布解析へ適用し,優先変形の発現の程度やその空間的配置について,何らかの統計学的特徴を掴みだすことを目的とする.
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Causes of Carryover |
本年度の研究において年度末に行った一部の実験の進行が遅延したことで予定していた物品の使用予定が遅れたため当該助成金が発生した.次年度の初頭に当該助成金に相当する支出を行う予定である.
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