2018 Fiscal Year Research-status Report
コバルトのスピン状態を活かしたマルチファンクション材料の創造
Project/Area Number |
18K04758
|
Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 桂輔 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 准教授 (10418212)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 嘉昭 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 教授 (30331979)
松尾 晶 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (70379311)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 透明絶縁体 / コバルトイオン / 磁歪 / スピン状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
強磁性転移温度180KのLa1-xSrxCoOにおいて,強磁性転移温度よりも遙かに高温の室温で磁場により双晶変形を示すことを明らかにした.室温で磁場により双晶変形を示す酸化物の報告例は今までに無い.双晶変形を生じる磁場は,温度上昇とともに強くなった.この温度依存性は,磁化の温度依存性の傾向と一致した.昨年度は磁場を[110]c方向に印加したときの磁歪を測定したので,今年度は[111]c方向の磁歪を測定する. La1-xSrxCoOとスピン状態の異なるLaCo1-xRhxO(x=0.2)の単結晶育成は難航している.本申請により入手した装置を用いて,多結晶の丸棒を比較的安定して作製できるようになった.その結果,単結晶の育成に初めて成功し,X線回折から3回対称の斑点を確認した.しかし,試料育成1週間後に単結晶は,自然崩壊してしまった.解決方法は見つかっていない. 透明絶縁体への3価のコバルトの導入を目指して,In2O3にコバルトをドープした試料を作製した.固相反応法では均一な試料が出来なかったが,液相反応法で均一な試料を得ることが出来た.X線回折のリートベルト解析と,X線光電子分光の結果から,コバルトが低濃度のとき,コバルトイオンは2価で24dサイトに入ることが分かった.高濃度になると3価が現れ,8bサイトに入ることが分かった.X線光電子分光の結果と合わせて,磁化の温度依存性を解析し,コバルトイオンのスピン状態を求めた.2価のコバルトイオンは高スピン状態に,3価のコバルトイオンは低スピン状態または中間スピン状態にあることが分かった.コバルトイオンで優先占有および価数を明らかにしたのは,初めてである.Al2O3などの絶縁体中にもコバルトを導入していく.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「La1-xSrxCoO3単結晶作製と磁歪測定」については,大型の単結晶を育成し,[110]c方向に磁場を引加したときの磁歪の温度依存性を測定できた.La1-xSrxCoOの構造相転移温度は1500 K付近のため,磁場の履歴を温度で消去するのは現実的ではない.応力を印加して磁場の履歴を消去する方法を確立した.各温度での磁歪の測定前に磁場履歴を消去し,磁歪の磁場依存を100~390Kの範囲で測定した.転移磁場は温度上昇とともに強くなったが,強磁性転移温度180Kを超えても双晶変形を生じ,300Kの室温でも生じることが分かった. 「LaCo1-xRhxO3の単結晶作製」は,本申請により入手した装置を用いて多結晶の丸棒を安定して作製できるようになり,単結晶の育成に挑戦できた.試行錯誤の結果,x=0.2の高濃度組成で単結晶を初めて育成することができた.さらに,X線回折から3回対称の斑点を確認した.しかし,その1週間後に単結晶は,自然崩壊してしまった.分析の結果,La2CoO4が析出していることが分かった. 「In2O3中のコバルトのスピン状態」は,まず多結晶の作製を固相反応法と液相反応法で試みた.その結果,固相反応法だと固溶せず,コバルトが不均一に析出することが分かった.一方,液相反応法では均一な試料が作成できた.ただし,x=0.2になるとCo3O4が析出した.x=0.2より低いコバルト濃度で実験を行った.X線回折曲線のリートベルト解析から,コバルトイオンは,低濃度だと24dサイトに,高濃度だと8bサイトに入ることが分かった.X線光電子分光からは,低濃度だとCo2+しか存在しなかったが,高濃度だとCo3+が現れることが分かった.In2O3系でCo3+を確認したのは初めてである.磁化測定からはCo2+は高スピン状態,Co3+は低スピン状態または中間スピン状態にあることが分かった.
|
Strategy for Future Research Activity |
「La1-xSrxCoO3単結晶作製と磁歪測定」では, 昨年度と別の方位の[111]c方向に磁場を引加したときの磁歪の温度依存を測定する.室温で磁場により双晶変形を示す酸化物の報告例は今までに無い.結果を早急にまとめて論文とする. 「LaCo1-xRhxO3の単結晶作製」は,育成が非常に困難であることが分かった.育成方法の再検討をしつつ,他の物質での検討も始める. 「In2O3中のコバルトのスピン状態」は,コバルトの優先占有を明らかにし,Co3+が存在すること,及びスピン状態も明らかにした.現在,論文を投稿中である.ただし,室温での強磁性は確認できていない.室温で磁化曲線に若干のヒステリシスは観測しているが,不純物による寄与の可能性を捨てきれない.磁化測定時の試料の保持方法を見直す計画を立てている.また,アニール方法を工夫して室温強磁性の発現を計画している.強磁性状態が確認でき次第,その状態でコバルトのスピン状態がどのようになっているか測定する.磁化は常磁性の温度領域での測定が必要になるため,1000K付近までの磁化の温度依存を計画している. Al2O3やGa2O3,TiO2,LaAlO3といった他の透明絶縁体でもコバルトがどのようなスピン状態にあるか明らかにしたい.昨年度,In2O3中のコバルトイオンについて,リートベルト解析,X線光電子分光,磁化の結果から,優先占有,価数,スピン状態を明らかにすることが出来た.まずは,同様の手法を用いてスピン状態まで明らかにし,スピン状態が外場で制御出来るかどうか検討する.
|
Causes of Carryover |
昨年度の3/4を過ぎた頃に,十分な結果が出ており,結果をまとめるのに集中した.そのため,実験の消耗品の使用が抑えられた.今年度の消耗品費用として使用する.
|