2019 Fiscal Year Research-status Report
逆浸透膜のオペランドインピーダンス解析によるイオン分離機能の劣化メカニズム解明
Project/Area Number |
18K04809
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 厚志 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (30417878)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
手嶋 勝弥 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00402131)
竹内 健司 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (20504658)
巽 広輔 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (60336609)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 逆浸透膜 / イオン伝導 / インピーダンススペクトロスコピー / 誘電緩和 / 非平衡状態 / 透水能 |
Outline of Annual Research Achievements |
【非平衡状態におけるEISの変化】 前年度に平衡状態における電解液/分離膜/電解液のインピーダンススペクトル(EIS)を測定し、Maxwell-Wagnerモデルに従って、定量的な解析を進めた。今年度は、この知見を基に、オペランドの解析評価の前段階として、非平衡の透水状態におけるEISを測定し解析した。初期状態として左右に等濃度の電解液(代表的にはKCl 10mmol/L)を満たし、左相電解液(RO膜の分離機能層側)/RO膜/右相電解液(RO膜の支持層側)で、左相にガス圧(例えば0.07MPa)を加え、左相から右相へ水を透過させた。その結果、平衡状態から非平衡の透水状態への転移とともに、Gが減少することを見出した。逆に平衡初期状態から右相にガス圧を加えると、Gが増加することが見いだされた。 【非平衡状態におけるEISの変化の解析】 (1)左相(機能層側)から右相(支持層側)への透水により、コンダクタンス(G)の支配要因である支持層内のイオン濃度が減少したことに起因して、Gが減少する。周波数を固定したデータの変化は、G(t)=G∞+ΔG(-exp(-t/τ))の表式で良くフィッテイングできることが分かった。ここで、初期平衡状態でのGはG∞+ΔG、τは変化の時定数である。市販のRO膜の場合、τはおよそ70~100秒程度である。(2)右相から左相に透水が生じた場合は、支持層内のイオン濃度が上昇したことに起因し、Gの増加がみられた。 前年度の平衡状態のスペクトル測定・解析を基に、今年度は平衡から非平衡に遷移させた透水開始状態の解析を行った。(浸透圧(π)―静水圧(p))に左右差がある非平衡状態に遷移した場合透水が生じ、コンダクタンスが数十秒の時定数で変化し、メゾスコピックな透水現象が測定、解析できた。これによりオペランドのスペクトル解析を進めるうえでの基盤が構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度、電解液(左相)/分離膜(分離機能層およびその支持層)/電解液(右相)からなる被測定系の平衡状態におけるEIS(測定周波数範囲は20Hz-2MHz)の測定および解析を行い、本年度はその知見を基盤に、非平衡状態に遷移した場合のEISの変化を非平衡状態への遷移後の時間をパラメタに加え測定解析した。EISは膜中のイオン伝導状態を周波数をパラメタとして解析するが、今回の測定系では高周波領域(数kHz~2 MHz)で現れるコンダクタンス(G)の変化が、支持層を起因とすることが前年の研究で判明し、かつそのGがイオン濃度に依存することを巧みに利用することで、平衡状態から非平衡状態に遷移した分離膜の透水特性をメゾスコピックに測定できることが新たに分かった。つまり、非平衡に遷移した透水開始後数十秒の時定数で支持層(厚さ数10ミクロン)のイオン濃度が減少、または増加する現象をGの変化として定量的にとらえることに成功したものであり、膜中のイオン伝導のみならず、分離機能層の水分子の透過能も定量化できるという意味でEISの新しい活用方法を見出したものである。当初の研究計画を上回る成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
この2年間の研究成果を基礎に、オペランド(連続的な加圧透水状態)におけるスペクトルを測定解析するとともに、膜を汚染する物質が電解液中に存在するときに稼働時間の経過とともに膜劣化がどのように発生するか、イオンの選択的分離機能、透水機能にどのような変化が起きるかを測定し考察を加える。 このため、測定セルを実際のRO膜の稼働と同様なクロスフロー構造とする。すなわち、浸透圧(π)よりも高い圧力(P)で電解液をRO膜と平行に流し、(Pーπ)で分離機能膜を介して水を選択透過させ、いわゆる脱塩状態を実現し透過水を得る。膜の垂直方向の複素インピーダンスを計測する点においては、従来の電極の配置と同様である。このオペランド状態において、クロスフローさせる電解液に有機成分、無機成分などの膜を汚染させる物質を添加させ、イオンの選択的分離機能、透水機能にどのような変化が起きるかを測定し、EISを対比させ、劣化メカニズムに考察を加える。
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