2019 Fiscal Year Research-status Report
多機能性イオン液体を溶媒とした木質バイオマス高度利用プロセス
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18K04827
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
柿部 剛史 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (00633728)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イオン液体 / セルロース / バイオマス / 置換基修飾反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,セルロース系バイオマスの高度利用を目指し,セルロース溶媒と官能基修飾反応触媒としてのイオン液体という,役割の異なるイオン液体の混合系を構築・組成調整し,温和な条件下でセルロース誘導体を合成した. セルロース溶媒として高極性イオン液体に着目して高セルロース溶解性を示す亜リン酸塩を合成し,混合イオン液体の主材料とした.これに塩化物アニオンを有するイオン液体を混合した混合系についてセルロース溶解を行った.それぞれ単独イオン液体のセルロース溶解性はKamlet Taftパラメータ一つであるβ値(塩基性度)と正の相関を示した。混合系のβ値は混合組成比に対して直線的に変化した一方で,そのセルロース溶解性は特定の混合組成で極大値を示した。NMR測定により,2種類のイオン液体アニオン間での水素結合による相互作用が生じていることが示唆され,複合化したアニオンがより強くセルロースに配位したことで溶解性を向上させたものと考えられる。また,複合化したアニオン群はイオン液体カチオンと強い水素結合を形成するため,カチオンのα値(酸性度)を向上させ,特定の混合組成比でα値は極大となり,セルロース溶解性も極大値を示すなど,単独のイオン液体溶媒とは異なるセルロース溶解挙動を示すことが明らかとなった。 これらのイオン液体混合系中でアセチル置換反応を行ったところ,その置換度はセルロース溶解量に対して負の相関を示し,「イオン液体アニオンの強い配位による基質となる無水酢酸との反応阻害」という前年度に得られた知見を補足するに至った。しかしながら,これらの知見からアニオンの立体構造を整理することで,イオン-イオン間,及びイオン-セルロース間の相互作用の詳細についてさらなる知見が得られるものと期待され,本研究で提案したプロセスの有用性が示されたと言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,従来の材料では困難であった①複数の機能性の付与と,②ハンドリング性能の保持を両立する方法として混合系に着目し,多機能性イオン液体を開発することを目的としている.今年度は特にセルロース溶媒として,混合溶媒とすることで新たな指標を見いだすことができ,役割の異なるイオン液体を独立して構造設計・合成し,最適な組合せ・組成比でのイオン液体混合系を構築する上で重要な知見を得ることができた。本研究の目的はある程度達成されており,おおむね順調に進展している.今後は,特に混合系とする上での触媒構造の最適化について詳細に検討を行い,セルロース誘導体合成反応を試行し,反応性との相関を精査することで,さらなる性能改善に結びつけることが主な検討項目である.
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Strategy for Future Research Activity |
今回得られた知見から複数種のイオンからなるイオン液体混合系では,イオン間での相互作用が重要な因子となることが明らかとなり,セルロース溶解性を維持,あるいは向上させつつ反応性を付与するための指針が得られた.そこで,より官能基置換度の高い条件を得るために,詳細なイオン構造の設計とその組合せの検討を計画している.また,平行して,アセチル基以外の官能基の導入も試み,修飾する官能基の違いによる置換度の変化(反応機構の違いによる変化)についても検討し,触媒反応のメカニズム解明につなげる.また,セルロースを主とする非可食バイオマスの高度利用の一例として,誘導体化したセルロース膜の評価も並行して行っていく.
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Causes of Carryover |
次年度使用額として50,000円が生じた理由として、2019年度に英語論文執筆にあたり英文校正費用を人件費・謝金として計上していたが、昨年度は日本語論文のみ執筆したため、使用していなかった。2020年度に入り、英語論文の執筆を継続しているため、こちらが完成し次第、英文校正に回し、その費用として使用する計画である。
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