2018 Fiscal Year Research-status Report
時間分解テラヘルツ全反射分光法を用いた光触媒反応における励起電子のダイナミクス
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18K04836
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡邊 浩 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (50625316)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 時間分解測定 / THz分光 / 光触媒反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
光触媒[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)は高効率のCO→CO2の還元反応を起こすことが知られている物質であり、その触媒反応の初期過程において光照射と電荷移動反応が必要であることが知られている。特に電荷移動反応はRe錯体と還元剤であるTEOAとの2体間の反応であり、THz領域にある分子間振動の時間発展を観測することで詳細な反応ダイナミクスを追うことができると期待されるが、TEOA溶液の吸収が強いため従来の透過型のTHz分光装置では測定が困難であった。 そこで私はTHz領域に高い吸収を持つ溶液中のTHzスペクトルを測定するためにシリコンATRプリズムを用い時間分解THz全反射分光の系の立ち上げを行った。その結果、目的の通り波長領域は0.1~2.5THz,ノイズレベルは0.1%以下の全反射スペクトルを得ることに成功した。 この実験装置を用いて還元剤であるTEOA溶液に溶かした光触媒物質[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)に400nmの光を照射し時間分解THz全反射分光測定を行った。その結果、光照射直後1.35THz付近の吸収ピークが低エネルギーへとシフトした後、約9psかけて元の位置へと緩和する様子が観測された。その後、2~3psと急峻な1.35THzの吸収ピークの強度の減少と1.7THzの吸収ピークの強度の増加が観測された。最後に光照射後から約15ps以降は1.35THzと1.7THzの吸収ピークの強度が共に減少する様子が観測された。このように光照射によりRe錯体とTEOAの分子間振動に対応するTHz領域の吸収スペクトルが3段階の緩和を示すことを発見した。 これらの成果を論文にまとめScientific Reportへと投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は時間分解THz全反射測定の系の立ち上げおよびその評価、光触媒[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)でのTHz領域の吸収スペクトルの時間発展の測定を目標としていた。 時間分解THz全反射分光装置の立ち上げに成功し、目標であった波長領域で0.1~2.5THz,ノイズレベルは0.1%以下というスペックはほぼ達成できた。 続いて[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)でのTHz領域の吸収スペクトルの時間発展の測定にも成功し、1~30psの間に3段階の緩和を示すことを明らかにした。 この通りこれまでのところ研究は順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は時間分解THz全反射分光の系の立ち上げを行い、光触媒[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)の光照射後のTHz全反射スペクトルの時間発展を測定した。その結果1.35THzの吸収ピークを中心にスペクトルが変化し3段階の緩和が見られた。この1.35THzの吸収ピークの起源は粉末試料とTEOA溶液中の試料のスペクトルを比較することでRe錯体とTEOAとの間の分子間振動モードと同定している。この同定をより確かなものとする為、他の溶媒中のTHz全反射スペクトルの測定を行う。また観測された3段階の緩和はTEOAからRe錯体への電荷移動に関係するものと考えているが、もしそうならば現在100%であるTEOAの濃度を低下させることで緩和時間の上昇などが起こると期待される。このように溶媒を変化させて時間分解THz全反射分光の実験を行うことで昨年度得られた緩和ダイナミクスの起源をより確かなものとする。 昨年度は光触媒反応の初期過程である光吸収および電荷移動反応のみを観測したが今年度はCO2→COの光触媒反応そのものの観測も試みる予定である。しかし光触媒反応が起こるとCOの気泡が発生する為、全反射分光法を用いたスペクトルの測定ができなくなる。そこでRe錯体を溶かした溶液をポンプで循環させる系を作ることで気泡を排除し光触媒反応全体の時間発展の観測を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
現在研究成果を論文にまとめScientific Reportへと投稿中である。その為、年度末にAcceptされても問題がないように投稿料の約20万の使用を行わなかった。 投稿論文は今査読中であり、昨年度中にAcceptとならなかった為、その投稿料20万を今年度へと繰り越しを行った。 繰り越した助成金は現在投稿中の論文の投稿料として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)