2019 Fiscal Year Research-status Report
Creation of novel artificial cells consisting of non-natural synthetic polymers
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18K04863
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
吉田 絵里 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263175)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高分子ジャイアントベシクル / 両親媒性ジブロック共重合体 / 人工核膜モデル / 有窓ベシクル / 出芽分離 / 形態安定性 / ベシクル輸送 / 増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、非天然の合成高分子からなるマイクロサイズのジャイアントベシクルに、細胞膜と類似の形態や機能をつくり出すことを通して、人工的に生命を創製できる可能性を実験的に証明することを目的としている。令和元年度は、(1)生体膜の形態を維持している裏打ち構造を高分子ベシクルで形成させる、(2)細胞内の膜輸送や増殖で見られる出芽分離を高分子ベシクルで発現させることについて検討を行った。以下にその概要を述べる。 裏打ち構造の形成に先立って、高分子ベシクルの形態と構造安定性の関係を、pH、塩濃度、および非共有結合的架橋の3つの物理的因子について検討した。高分子ベシクルには、平成30年度と同様に、メタクリル酸メチルとメタクリル酸のランダム共重合体(P(MMA-r-MA))を疎水セグメントに、ポリメタクリル酸(PMA)を親水セグメントにもつ両親媒性ジブロック共重合体(PMA-b-P(MMA-r-MA))の重合誘導型自己組織化によって形成されるジャイアントベシクルを用いた。いずれの因子に対しても球状ベシクルは崩壊や融合を引き起こしたのに対し、ワーム状ベシクルは高pHや高塩濃度下でもその形態を維持することがわかった。 一方、出芽分離の発現では、核膜の形態である有窓ベシクルを高分子ベシクルで新たに創製し、その熱的安定性の評価を通して、高分子ベシクルの膜で出芽分離を起こさせることに成功した。また、疎水セグメントの重合による生長にともなって、親ベシクルの膜内で子ベシクルが形成され、さらに子ベシクルの膜内で孫ベシクルが形成されるという、ベシクルの新しい増殖形態を見出し、この有窓ベシクルを用いた新奇な人工核膜モデルを創製することができた。このような研究成果に対し、海外で開催された複数の国際学会に招待され、3件(内2件はPlenary lecture)の招待講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度に実施した(1)高分子ベシクルの裏打ち構造の形成に関する検討は、本研究計画で明らかにする5つの研究項目の中の、③生体膜の形態を維持している「裏打ち構造」を高分子ベシクルでも形成できるか調べるに該当し、(2)高分子ベシクルにおける出芽分離の発現の検討は、④生体膜の膜輸送の機能を高分子ベシクルで発現させることができるかを調べる、および⑤単細胞生物の増殖の1形態である「出芽分裂」により高分子ベシクルの増殖が起こるかを調べるに相当する。また、この出芽分離発現の検討を通して新たに創製した有窓ベシクルを用いる人工核膜モデルは、研究項目の②生体膜の形態を高分子ベシクルで形成できるかを調べるにも当てはまる。研究計画調書では、研究項目の①合成高分子が分子二重層を形成するための要件を合成高分子の設計を通して明らかにする、および②を平成30年度に、③~⑤を令和元年度以降に行うことになっている。実際、①の合成高分子の分子二重層形成要件、および②の複雑系でない生体膜の形態形成については、すでに平成30年度に検討済みであり、それら研究成果に基づいて発展的に③~⑤を令和元年度に実施することができている。これらのことから、現在まで概ね研究計画通りに進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度に実施した研究で、本研究計画で明らかにする5つの研究項目の中の③~⑤の項目を達成するための基本的な概念や方法論を見出すことができた。しかし、ここで得られた研究成果は基礎的なものであり、それらをそのまま人工生命の創製に結びつけるにはまだ不十分な点が多い。したがって、今後はこれらの概念や方法論をベースにして、細胞や生体膜により近い挙動や機能を高分子ベシクルで発現させることを通して、人工細胞モデルの確立を目指す。その方法として、③の裏打ち構造の形成では、高分子ベシクルの感熱応答挙動も検討事項に加える。また、④の膜輸送の発現では、高分子ベシクルの膜透過性やベシクル輸送の検討に加え、生体膜の能動的な膜透過で見られる生体膜上での電子伝達反応によるコンフォメーション変化にも着目し、高分子ベシクル膜上での電子伝達系の構築とそれに基づく高分子ベシクルの形態変化についても検討する。さらに、⑤の出芽分裂による増殖の発現では、出芽分離以外の増殖プロセスも検討事項に入れながら、人工生体膜モデルの総合的な展開を図る。
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