2020 Fiscal Year Research-status Report
Creation of novel artificial cells consisting of non-natural synthetic polymers
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18K04863
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
吉田 絵里 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263175)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工細胞膜モデル / ジャイアントベシクル / ベシクル膜 / 反応性結合部位 / 両親媒性ジブロック共重合体 / 形態変化 / 感熱応答挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、細胞膜の形態維持や膜輸送で重要な役割を担っている細胞膜表面の受容体のモデルとして、ジャイアントベシクルの膜表面に化学反応に関わる結合部位を導入し、その反応とベシクルの形態変化について検討を行った結果、結合部位の反応に連動してベシクルの形態が変化することを見出し、より生きた細胞に近い人工細胞膜モデルを創製することができた。反応性結合部位として、酸素やプロトンに対する捕捉能を有し、かつ電子伝達系の触媒の前駆体にもなる2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TP)を選択した。TPのメタクリル酸誘導体(TPMA)のホモポリマー(PTPMA)を親水セグメント、メタクリル酸メチル(MMA)とTPMAのランダム共重合体(P(MMA-r-TPMA))を疎水セグメントとする両親媒性ジブロック共重合体、PTPMA-b-P(MMA-r-TPMA)を構成単位にもつ、直径約3umの球状ジャイアントベシクルをメタノール中、過酸化水素と50℃で反応させた。電子スピン共鳴(ESR)による解析の結果、96%のTP部位が1原子の酸素を捕捉してTPのオキシラジカル(TEMPO)に変換されたことがわかった。また、走査型電子顕微鏡観察により、この酸化によってベシクルが球状から板状に変化したことが明らかになった。さらに、この板状ベシクルをL-アスコルビン酸と反応させた結果、77%のTEMPOがその還元体であるヒドロキシルアミン体に変換され、TEMPOが膜表面で1電子受容体として働いたことが示唆された。一方。ベシクルの感熱応答挙動についても検討を行った結果、加熱によって崩壊した球状ベシクルが冷却により再生されることがわかった。このことより、このベシクル膜が熱力学的な流動性と再生可能な形態安定性を持つことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の、ベシクル膜への反応性結合部位の導入とその反応に基づくベシクルの形態変化に関する研究成果は、本研究課題で明らかにしようとする項目の「③生体膜の形態を維持している『裏打ち構造』を高分子ベシクルでも形成できるか調べる」および「④生体膜の膜輸送の機能を高分子ベシクルで発現させることができるかを調べる」に関連している。これらの研究成果は、③および④についての単なる検討結果ではなく、それに基づいた発展的な検討から得られたものである。ベシクル膜に反応性結合部位として導入されたTPは酸素やプロトンを捕捉するだけでなく、これらの物質を受容したあとでもその静電的相互作用や電気的作用により物質を非共有的に結合する能力を有する。このことは、細胞の裏打ち構造で細胞膜中の膜貫通タンパクが表在性膜タンパクを非共有的に結合することと共通点がある。また、TPの物質の受容によって引き起こされたベシクルの形態変化は、膜輸送の1形態である小胞輸送において、細胞膜表面の受容体タンパクへのアダプチンの結合が引き金となって細胞膜の形態変化が起こり小胞体の形成につながる現象と類似している。令和2年度までの進捗状況は、これらの実験的な研究成果の側面のみから考えると「(1)当初の計画以上に進展している」と判断できる。一方で、COVID-19の感染拡大防止のために各国の海外渡航が大幅に制限され、多くの国で対面型の国際学会の開催が中止になり、研究成果の発表が論文中心になったため、研究成果の公開という観点からは研究計画通りに進行したとはいい難い。これらのことを総合的に判断し、現在までの進捗状況を「(2)概ね研究計画通り」と結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本研究計画で明らかにする最後の項目である「⑤単細胞生物の増殖の1形態である『出芽分裂』により高分子ベシクルの増殖が起こるかを調べる」を中心に研究を進める。当初の研究計画では、出芽分裂を高分子ベシクルの増殖に限定して考えていたが、今後の研究ではベシクルの増殖に留まらず、出芽分離が関与するさまざまな生体内の生命活動にその範囲を拡大して、ベシクルの形態変化によって起こる出芽分離自体を新たな形態変化の誘発因子として捉える発展的な研究に展開する。このように、静的な形態の類似性だけでなく、生体内の生命活動に付随する動的な形態変化を高分子ベシクルに発現させ、生きた細胞との類似性を見出すことを通して、これまでの研究成果と合わせ総合的に、非天然の両親媒性高分子からなるベシクルが、人工生命の創製につながる新しい人工細胞膜モデルとして極めて有用であることを実験的に証明する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の大半は、海外で開催が予定されていた国際学会での研究発表のための旅費であった。しかし、COVID-19の感染拡大防止のために多くの国際学会で対面型の開催が見送られ、その結果として、海外渡航の旅費分が未使用額として生じた。ワクチンの接種の広がりとともにCOVID-19の感染拡大が治まり、対面型の国際学会が開催されるようになり次第、国際学会に出席し研究発表を行う費用として使用する予定である。
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