2018 Fiscal Year Research-status Report
近距離Casimir力の起源となる表面プラズモン振動モードのEELS解析と力評価
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18K04872
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
坂口 紀史 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70344489)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
國貞 雄治 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00591075)
松尾 保孝 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (90374652)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 表面プラズモン / カシミール力 / EELS |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に金属平板間における表面プラズモン共鳴(SPR)の相互作用に関する評価を実施した。金属として金および銀を選定し、Si基板上に金属/SiO2/金属膜を成膜し、FIBにて断面サンプルを作製することで、これを平行金属板とみなした。SiO2層の厚みを変えたサンプルを複数作製し、平板間距離とSPR相互作用の関係をSTEM-EELSにより実測した。二枚の銀板を平行に並べることで、単一平板に励起されるSPR共鳴エネルギーよりも高エネルギー側に共鳴ピークが現れることが示された。さらに、平板間距離が狭くなるほどそのエネルギーは上昇することが明らかとなった。これは表面プラズモンの反結合的なモードが現れていることを意味しており、カシミール力を低下させる要因となる。一方、二枚の金板を平行に並べた場合は明瞭なピークのシフトは見られなかった。金平板に励起される表面プラズモンの共鳴エネルギーはバルクプラズモンの共鳴エネルギーに近く、電子線照射のさいに両方のプラズモンが同時に励起されたためと考えられる。これを確認するため、離散双極子近似(DDA)を用いたシミュレーションを実施した。銀板で得られた実験結果と同様に、平板間間隔が狭くなるほど共鳴エネルギーが高エネルギー側にシフトすることがシミュレーションからも明らかになった。一方、金板に対するシミュレーション結果より、二枚の平行金板を近づけていったとしても表面プラズモンの共鳴エネルギーはバルクプラズモンのそれを超えることはなく、その値に漸近することも示された。よって、SPR相互作用は金属種や周囲の環境(平板間にある物質の屈折率など)に強く影響されることが本研究より明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進んでいる。金属平板の作製について、当初はリソグラフィーを用いた手法を検討していた。予備実験にて真空中の平板間におけるSPR相互作用をSTEM-EELSにて実測していたところ、EELS分析中に金属表面にコンタミネーションが付着することが問題となり、正確なSPRエネルギーが測定できなくなる事象が発生した。本研究のポイントはSPR共鳴エネルギーと平板間距離との関係を明らかにすることにあるため、本年度はCVD/スパッタ蒸着により金属/SiO2/金属膜からなる多層膜を成膜し、SiO2膜を真空と見立ててSTEM-EELS分析することにした。このとき、共鳴エネルギーはSiO2の屈折率により低エネルギー側へとシフトするが、金属表面におけるコンタミネーションの発生を完全に抑制することができるため、正確な共鳴エネルギーと平板間距離との関係を明らかにすることができた。また、この構造は典型的なMIM(Metal-Insulator-Metal)構造であり、本研究で得られる知見はカシミール力への補正項の導出のみならず、プラズモニクス導波路の基礎的な特性を考えるうえで極めて重要となる。また、DDAシミュレーションについては、実在金属の誘電率を用いた計算を実施することでSPR相互作用の金属種による違いを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで、反結合的なSPR相互作用を実測することに成功し、平板間距離の関数としてSPR共鳴エネルギーを求めることができた。一方、平板間に発生する結合的なSPR相互作用を実測するには至らなかった。これは電子線が作る電界の向きが両平板で半平行となるためであり、引力的な相互作用を測定するためにはサンプル形状を工夫する必要がある。今後は、はじめにDDAシミュレーションを用いて結合的な相互作用を測定するためのサンプル形状を予測し、その結果をもとに実際のサンプル作製を進めていく。さらに、金属平板間に挟む誘電体の種類を変えることで、より広いエネルギー範囲でSPR共鳴のSTEM-EELS解析を実施していく予定である。また、得られらたデータより、カシミール力に及ぼす表面プラズモンの影響について検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度のサンプル作製において、当初はリソグラフィーを用いる予定であったがこれをCVDやスパッタ成膜に変更したため差額が生じた。翌年度はより複雑な形状のサンプル作製を試みるため、本年度の未使用額を次年度の試料作製費に充てることにした。
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Research Products
(2 results)