2020 Fiscal Year Research-status Report
Predominance of quantum well structure for solar cell application from a non-radiative electron transition loss point of view
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18K04876
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
碇 哲雄 宮崎大学, 工学部, 研究員 (70113214)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子井戸 / 量子ドット / 太陽電池応用 / 光電変換効率の優位性 |
Outline of Annual Research Achievements |
液滴エピタキシ法で作製した良質のGaAs/AlGaAs量子ドットについてフォトルミネセンス(PL)測定を行った。これまで報告されていたPLピークの温度依存性における赤色変位という異常な振る舞いは量子ドットのアンサンブルとしての解析から説明されていたが、この論文ではこの赤色変位に加え、新たに発見した200K辺りから高温側に見られる青色変位についても理論解析を行った。その結果、得られた実験事実はドットのサイズのばらつきと同時にAlGaAs障壁層でのキャリアのやり取りを考慮した理論計算モデルで旨く説明する事ができた。更に、キュアリアのやりとりを低いエネルギー状態で行う事ができる量子井戸を濡れ層として挿入し、これがキャリアの動力学に及ぼす影響について明らかにした。この事により、量子ドット試料における量子井戸の役割を明確にする事ができた。 歪み緩和層を挿入したInGaAs/GaAsPについて光熱変換分光法(PPTS)の実験を行った。このPPTS信号は量子井戸内に励起されたキャリア(電子と正孔)の緩和過程を時に非発光成分の観点から測定できる我々が開発した有用な実験手法である。この構造に対して我々は以前(2019年)にキャリア動力学を電子のみの再結合モデルを用いてフォトルミネセンス(PL)の実験結果を検討し論文を公表してきた。今回は、これまでのモデルに新たに得られたPPTSの実験結果を加えると同時に、従来考慮されていなかった正孔の役割をモデル計算の中に加えた。つまり、発光遷移と非発光遷移、更にキャリアの電場によるドリフトの成分など考え得る全ての過程を考慮したモデルで実験結果を解析した。この結果は、量子ドットや量子井戸を含む量子構造デバイスにおけるキャリアの動力学を総括的に解析できたことになり、有効な実験手法と解析手法を得ることができた事を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要に述べたように、量子ドット、量子井戸について論文をそれぞれ1編ずつ公表した。更にこれらの量子構造を太陽電池デバイスとして応用する際に理解することが必要となる、集光時における光励起されたキャリアダイナミクスを解析した論文を1編公表した。学会についてはWebで開催された応用物理学科に4件ほど発表したが、例年のように多くの学会へ参加し、他研究機関の研究者と議論を深めるという機会は少なかった。以上の成果により研究はおおむね順調に進展していると言える。 なお、上記3編目の公表論文について補足しておく。太陽電池では特に集光した場合の光励起キャリアの収集効率や移動度についての議論が大切であるが、一般的にこれらについて具体的に解析した例はない。そこで、一般的で物性定数が分かっているSiとGaAsについて、光照射時のホール係数を既存の実験装置を改造して測定する事により、電子および正孔の移動度の照射光かとその温度依存性を議論した。その結果、光強度の増加によって移動度が減少することを実験的に初めて確認し、その原因がキャリアの格子散乱と試料中の欠陥などによって起こっているのではないことを明らかにして論文として公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
量子ドットや量子井戸については量子構造を持つドット、層からのキャリアの熱励起による太陽電池変換効率への影響を調べるために、歪み緩和層の影響をより具体的に議論する必要がある。電子と正孔を同時に考慮し、PPTSとPLの実験結果を同時に説明するようなモデルはこれまでの研究で既に持っている。ただ、これまでは歪み緩和層がキャリアの障壁としてのみ寄与しているモデルでの解析にとどまっていて、緩和された歪みが具体的にキャリアダイナミクスにどのように関わっているのかについては、初期的な実験結果は得られたものの解析は進んでいなかった。そこで、この緩和層の厚さを意図的に変えた試料を用意できているので、緩和層の厚さ、導入された歪みの量(バンドギャップの変化として導入)を考慮してバンド構造をモデル化し、キャリアダイナミクスについても理論計算を行う。さらにそれを実験結果と合わせていくことで、考慮されたモデルの中でどの緩和プロセスが大きく影響しているのかを解析する。具体的には、構築したモデルを用いて重点的に理論計算を行う。なお、量子井戸ならびに量子ドットに関する実験結果とその解析手法、解析結果については、できるだけ早い時期に国際会議で発表を行う予定であり、世界の研究者と有意義な議論ができるものと期待している。ただ、COVID-19の影響で2021年度の国際会議も未だ開催決定に至っていないことから、今後は国際社会の状況を見ながら判断することになる。この一方、論文執筆にこれまで以上に多くの時間を使う事ができるため議論は進展するものと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度後半に量子井戸や量子ドットに関する理論的解析モデルの構築がほぼ完了したため、より完成度の高い報告をするために国際会議等での発表を2020年度中に考えた。そのため、旅費等に用いる研究費を次年度の多く使える様にした。しかし、2020年度5月に開催予定のフランスで開催されるEMRSはオーラル講演を含む3件の論文がアクセプトされたもののCOVID-19のために中止となった。またこれまで何度も講演を行ったAVSシンポジウム(米国真空学会)など他の多くの国際会議も軒並み中止となった。ただ、幾つかの学会はWeb開催となっていたが、複雑なモデルの話は対面での議論が不可欠と考え、国際会議への出席を主要な目的とし科研費を繰り越すことにした。なお、補足実験や理論解析のために経費は2021年度も使用する。
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