2021 Fiscal Year Research-status Report
Predominance of quantum well structure for solar cell application from a non-radiative electron transition loss point of view
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18K04876
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
碇 哲雄 宮崎大学, 工学部, 研究員 (70113214)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子ドット / 量子井戸 / 太陽電池応用 / 光電変換効率の優位性 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子井戸や量子ドットをもつ半導体量子構造太陽電池が高い光電変換効率を持つものとして精力的に研究されている。本研究課題では両者のうちいずれが今後の研究対象として優位であるかについて非発光電子遷移の観点から議論しようとするものである。液滴エピタキシ法で作製した良質のGaAs/AlGaAs量子ドットについてはそのサイズに不均一性はあるもののかなり高い効率を持つものが作製できるようになった。特に、これまで問題となっていたバンド間遷移エネルギーの異常な温度依存性については、ドットのサイズのばらつきと同時にAlGaAs障壁層でのキャリアのやり取りを考慮した理論計算モデルで旨く説明する事ができた。更に、キュアリアのやりとりを低いエネルギー状態で行う事ができる量子井戸を濡れ層として挿入し、これがキャリアの動力学に及ぼす影響について明らかにした。一方の量子井戸構造をもつものについては、デバイスを作製するうえで極めて高い精度でのサイズの制御が可能であることから量子ドットに比べてその優位性が期待されている。我々が研究対象としているInGaAs/GaAsPは、構造上極めて高い効率を持つものとして研究してきたが、格子整合を図るために導入したGaAs歪み緩和層の役割を十分に理解することはできていなかった。そこで、本研究課題では、障壁層のP組成を変化させることで生じる光励起キャリアの輸送特性を、発光再結合、非発光再結合、トンネルによるキャリアの輸送、熱励起によるキャリアの輸送の四つのプロセスを含むレート方程式を立て実験結果を解析した。その結果、歪み緩和層の挿入で期待できる長距離に渡る平均歪みが局所歪みによって十分に緩和できなくなり、Pのある組成での効率が最高になることを見いだした。この成果を、国内外の学会で公表し議論を深めることで量子構造太陽電池の開発に携わる研究者に指針を示すことが重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GaAs/AlGaAs量子ドットについての実験成果はすでに学術論文として2020年度に公表している。歪み緩和層を挿入したInGaAs/GaAsP量子井戸については、光励起キャリアの輸送方程式を伝導体の電子と価電子帯の正孔双方について同時に考慮する新しいモデルについては2020年度に公表済みである。2021年度には後者の議論を基礎として、Pの組成を変えることで平均歪みと局所歪みの相関関係について議論し、最適な作製条件を示唆する研究成果については学会での発表を2021年度にすでに行い、国際的学術雑誌へ投稿するところまで準備ができている。以上の成果により研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
量子構造における光励起キャリアの輸送効果が太陽電池変換効率へ及ぼす影響を調べるために、量子ドット構造における濡れ層の影響と、量子井戸層における歪みの緩和プロセスをより具体的に議論できた。そこで2022年度は、このモデル計算でこれまで考えていなかった高次の量子準位の影響などを考慮した理論解析的な研究を行いながら、この研究成果を広く世界に発信し、関係する研究機関との議論を深めることでより進めていく。量子井戸ならびに量子ドットに関する実験結果とその解析手法、解析結果については、できるだけ早い時期に国際会議で発表を行う予定であり、世界の研究者と有意義な議論ができるものと期待している。ただ、COVID-19の影響で2022年度の国際会議も未だ開催決定に至っていないこともあり国内での学会における講演に中心を移す必要が出てきているが、今後は国際社会の状況を見ながら判断することになる。ただ、論文執筆にこれまで以上に多くの時間を使う事ができるため解析と議論は一層進展するものと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度に量子井戸や量子ドットに関する大まかな理論的解析モデルの構築がほぼ完了したため、より完成度の高い報告をするために国際会議等での発表を2021年度中に考えた。そのため、旅費に用いる研究費を次年度の多く使える様にした。しかし、フランスで開催される予定のEMRS(欧州材料学界国際シンポジウム)は2021年、2022年と続けてCOVID-19のために中止となった。またこれまで何度も講演を行ったAVSシンポジウム(米国真空学会)も軒並みWeb開催となっている。さらに、2022年のオーストラリアで開催予定の4年目のICPS(半導体物理国際会議)はアブストラクトが2件受理されたものの極めて微妙な感染状況から参加を取りやめた。ただし、国内の学会は一部がWebとはいえ対面の講演が可能となりつつあるため、国内学会を主として発表の場とする予定である。本研究のように複雑なモデル計算を伴う解析については対面での議論が不可欠と考えている。従って、国内外への学界への出席を主要な目的とし科研費を繰り越すことにした。なお、解析あるいは論文執筆中に必要となる付加的な補足実験や理論解析のために経費は2022年度も続けて使用する。
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