2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K04884
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
佐藤 公法 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00401448)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 二次元物質 / ナノシート / 機能性ナノ空間 / ポジトロニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
二次元無機ナノ凝集体は,厚さ約1ナノメートルで,数十ナノメートルからミクロンオーダーまで二次元的な広がりを持って配列するシート状の平面凝集体である。本研究では,二次元構造に起因する特異な電子状態,及び局所構造に着目し,化学的活性性,優れた物質捕獲能を有する新規機能性ナノ空間を創成することを目的とする。ナノ空間はナノシートを任意幾何学的に空間配列させることによって構築する。上記基本操作を用いて構築した多様なナノ空間について,吸着特性,分子ふるい,物質貯蔵の観点から評価する。とりわけ,二酸化炭素分子の吸着に関しては,未だ実現されていない,常温・常圧環境下で物理吸着と化学吸着の両方を発現するナノ空間の創成を目指す。初年度にあたる平成30年度は,ナノシートに対する基本操作として,シートの並進移動,回転,切断による細分化,湾曲に着目した。これら4つの基本操作により,ナノシートを任意幾何学的に空間配列し,ナノ空間の構築が可能であることを示した。2年目の令和1年度は,初年度に確立した基本操作によりナノ空間を構築し,ポジトロニウム(Ps)分光法により直接検出することを試みた。Ps寿命測定法により得られたナノ空間サイズは数オングストロームから数十オングストロームスケールであることがわかった。Ps寿命測定法によって得られたナノ空間サイズは,分子動力学計算によるシミュレーション結果と良い一致を示した。さらにortho-Psがナノ空間内部で内壁近傍元素に付随する電子をピックオフして消滅するガンマ線光子の運動量分布を抽出することにより,ナノ空間近傍元素情報を得ることができるようになった。加えて,通常の溶出実験,放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP),133Cs固体核磁気共鳴法,ポジトロニウム分光法を組み合わせて,上記ナノ空間内のセシウム吸着サイトを定量する方法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,二次元構造に起因する特異な電子状態,及び局所構造に着目し,化学的活性性,優れた物質捕獲能を有する新規機能性ナノ空間を創成する。ナノ空間構築のために,ナノシートの並進移動,回転,細分化,湾曲に着目し,ナノシートを任意幾何学的に空間配列させる。初年度にあたる平成30年度は,4つの基本操作であるナノシートの並進移動,回転,細分化,湾曲を個別に調査し,実現可能性について調べた。2年目の令和1年度は,初年度に確立した基本操作により構築されたナノ空間の局所構造の評価に取りかかるとともに,セシウム吸着特性に着手した。ナノ空間の局所構造評価の一つとして,サイズの定量を行った。Ps寿命測定法により,ナノ空間内に局在するortho-Psピックオフ消滅寿命(数ナノ秒から数十ナノ秒)を計測し,実績のある量子力学モデルにより空間サイズを決定した。得られたナノ空間サイズは数オングストロームから数十オングストロームスケールであり,分子動力学計算によるシミュレーション結果と良い一致を示した。さらに,ortho-Psピックオフ消滅に起因する消滅ガンマ線光子運動量分布からナノ空間近傍に位置する酸素やセシウムなどの元素情報を得ることができるようになった。加えて,通常の溶出実験,放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP),133Cs固体核磁気共鳴法,ポジトロニウム分光法を組み合わせて,上記ナノ空間内のセシウム吸着サイトを定量する方法を確立した。この方法により,構築されたナノ空間の内壁やエッジサイトに,数100 mmol/kg程の濃度でセシウムが吸着することを見出した。以上より,ナノ空間構築に関する知見を初年度に引き続き蓄積できただけでなく,ナノ空間内部へのセシウム吸着の議論にも進むことができた。以上より,現在までの達成度はおおむね順調と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノシートを任意幾何学的に空間配列させるために不可欠な基本操作として,並進移動,回転,細分化,湾曲が実現可能であることを初年度に確認できた。2年目である令和1年度は,上で述べたナノシートの基本操作を推進し,内部にエッジ構造を持つナノ空間,ステップ構造を持つナノ空間,物質捕獲サイトを持つナノ空間を構築することに成功した。上記は全て当初の計画通りである。最終年度である令和2年度は,上記で構築されたナノ空間に対して,2年目に引き続きセシウム吸着の観点から評価する。2年目に定量化したセシウム吸着サイトの中で,ナノシートエッジサイトに吸着するセシウムは強固であり,これまでの研究から,高濃度酸で洗浄しても除去できないことがわかっている。ここでは,マイクロ波,超音波照射を用いたエネルギー付与により,微視的物質移行経路の構築を試みる。移行経路は電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察,X線回折(XRD),Ps分光により調べる。移行経路が確保された試料に対して,キレート剤等によるセシウム除去を試みる。特異吸着サイトからの除去は,133Cs固体核磁気共鳴法,フーリエ変換赤外吸収分光(FT-IR)により調べる。加えて,地球上で最も産出量が多いケイ酸塩鉱物中のナノシートを用いて,二酸化炭素分子について,常温・常圧環境下で物理吸着と化学吸着が同時に発現するナノ空間を構築する。このナノ空間内部では,取り込んだCO2分子を自発的に炭酸イオン化し,10%程度化学吸着の獲得を目指す。
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