2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K04908
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
津金 麻実子 中央大学, 理工学部, 特別研究員 (00469991)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 人工脂質膜小胞 / リポソーム / 膜融合 / 電気融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ナノスケールの脂質二重膜小胞の電気融合を高効率に実現するための方法やデバイスを開発し、生体由来の小胞の検出や解析に活用することを目的としている。電気融合法は電気パルスという物理的刺激で膜融合を実現する汎用的方法である。ハイブリドーマ作製や細胞への物質送達などの重要な操作に利用されているが、マクロ電極を用いた原理的な限界からその適用範囲は直径5ミクロン以上の比較的巨大な膜構造に限定されていた。本研究ではマイクロ電極を用いて、エクソソームに代表されるナノスケール小胞の膜融合の実現に向けた基礎的条件を確立する。 1年目である本年度は大きさの異なる小胞の作製と、小胞の融合を確認する方法の確立を行った。小胞としては電気融合に適用するため、膜多重度が1のユニラメラリポソームをリン脂質から作製した。直径20ミクロン前後の大きな小胞(GUV:giant unilamellar vesicle)は界面通過法により調製し、小さなサイズの小胞はGUVからエクストル―ジョン法により作製した。2種類の小胞の融合を確認する方法としてCalcein-Co2+-EDTAシステムを検討した。内封溶液、サイズの異なる2種類の小胞を調製し、アルミテープを電極とした自作の電気融合チャンバーを用いて顕微鏡のステージ上で電気融合を実施し、融合の有無を蛍光検出により確認した。その結果、直径20ミクロン前後と直径5ミクロン前後の小胞では融合をリアルタイムで検出することができた。 以上の方法ではGUV同士が融合してしまうことや電気パルスを印加中に溶液に流れが発生して観察が困難であることが問題となった。そこでこれらを回避するために、GUVを固定、配列するマイクロデバイスを、微細加工技術を用いて作製した。マイクロウェル構造を有するPDMS製デバイスにGUVをトラップさせて配列することが可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの小胞の融合は、それぞれ異なる蛍光色素を内封して融合後に2種類の蛍光が検出できれば確認可能であるが、一方の小胞のサイズ(体積)が小さい場合は蛍光色素が希釈されて検出が困難となる。そこで融合の検出にCalcein-Co2+-EDTAシステムを採用した。このシステムは、CalceinにCo2+を加えるとCalcein-Co2+錯体を形成してCalceinの蛍光が消失するが、さらにEDTAを加えるとEDTAとCo2+がキレート錯体を形成しCalceinとCo2+の結合が解除されて、Calceinの蛍光が再び現れることを利用している。一方の小胞の内液にCalcein-Co2+錯体、もう一方の小胞にEDTAを内封することで、融合により内封液が混合した小胞のみ内液のCalceinが蛍光を示す。本年度は直径が4-5倍程度異なるサイズではあるが、このシステムにより電気融合後にCalceinの蛍光が観察され、サイズの異なる小胞の融合を確認できた。 顕微鏡観察下で小胞の融合をリアルタイムで観察可能であり、小胞の融合効率の上昇や並列化によるハイスループット化が期待できるマイクロデバイスの作製に着手できたことから、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はサイズが小さい小胞の調製にエクストル―ジョン法を用い、直径数ミクロンの小胞を作製した。今後は、本研究の目的である生体由来の小胞の検出や解析を想定した直径100 nm前後の小胞の効率的な電気融合法を開発するために、1ミクロン以下の小胞の作製を行う。多孔を有するポリカーボネートメンブレンを使用するエクストル―ジョン法では小胞の崩壊によるロスが多かったため、開口率の高い金属メッシュを用いた新たな方法を試みる。 また、本年度に開発を開始したマイクロデバイスを用いて大小異なるサイズの小胞を電気融合することが、現在使用している電気融合チャンバーで可能であるか確認する。それが達成できたら、近接マイクロ電極による電気融合を検討する。一般的な電気融合法では、まず電極間に1 MHz程度の交流電場を与えて誘電泳動を誘起して膜を近接させ、次に短い直流電圧のパルスを与えて近接した膜を穿孔し、膜融合を起こす。理論上は、小胞のサイズが小さくなるとそれに比例した電界(電圧の勾配)が必要となるため、電極間距離を小さくしたり、局所電界を発生させたりなどの装置上の工夫が必要となる。そこでマニピュレータに取り付けた先端径が数ミクロンのマイクロ電極を操作して電極間距離を調節できる系を構築し、電気融合の条件出しを行う。
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Causes of Carryover |
研究計画においては、1年目にマイクロ電極や電極の固定のために顕微鏡に設置するマニュピレーターを購入して、マニュアルで電極間距離を調節して電気融合を行う系を構築する予定であった。しかし、予備実験において2本の電極を用いた電気融合でも電気パルスを印加中に溶液に流れが生じて、顕微鏡で観察しながら電気融合を行うことが困難であった。そこで、小胞をトラップするマイクロデバイスの開発を先に着手したため、マイクロ電極やマニュピレーターを購入せず、次年度使用額が生じた。翌年度に電気融合チャンバーにおけるマイクロデバイスの有用性が確認できたら、このデバイスを用いて近接マイクロ電極による電気融合を検討するためにマイクロ電極やマニュピレーターを購入する。
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Research Products
(9 results)