2019 Fiscal Year Research-status Report
ナノ制限空間を用いる高感度・ウエアラブルな印刷有機FET型非標識免疫センサの創出
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18K04910
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
長峯 邦明 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (00551540)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機FET型免疫センサ / 汗 / プリンテッドエレクトロニクス / バイオセンサ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、採血不要で、汗成分から体調を測り管理できる新規免疫センサの創出である。特に本研究では、メンタルストレスを反映し得るホルモンであるコルチゾールを測定対象とした。汗中コルチゾールセンサの実現にむけた課題は、①いつでも汗を採取可能にする汗採取技術の確立、②血中より濃度の低い汗中コルチゾールの高感度・高選択的検出原理の開発である。①に関しては前年度に、皮膚にリン酸緩衝生理食塩水を接触させるだけで汗成分を採取できる新規汗成分採取法を世界で初めて確立した。今年度はこの手法を用い、被験者から採取した汗に含まれるコルチゾールの定量実験を進めた。また②に関しては、高感度な電気化学計測には安定した参照電極が必要であることから、当初の予定から前倒しして印刷法で作製可能な高安定性参照電極の開発を進めた。また、①で定量したコルチゾール濃度が想定より低かったことから、当初想定していた非標識検出法に加え、今後は標識法も併せて検討することにした。今年度は本研究に関わる成果として、論文2報(Analytical sciences,2020,36,291(Hot Article Awardに選定)、もう1報は現在投稿中)、総論1報(シーエムシー出版「酵素トランスデューサーと酵素技術開発」)、国際会議での招待講演1件(ISIPS2019 International workshop on Bioiontronics)、国内学会での招待講演3件(有機エレクトロニクス研究会、バイオ関連シンポジウム、日本MRS)という成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①汗中コルチゾールの定量 前年度確立した汗成分採取法を利用し、被験者から採取した汗中コルチゾールの濃度を、酵素免疫測定法(競合法)で定量した。血中のコルチゾールは早朝に高く、その後昼間にかけて減少するという日内変動を示すことが知られる。そこで早朝と正午に汗を採取しコルチゾール濃度を定量した結果、それぞれ約20 ng/mLと 約 2 ng/mL(n=1)であった。これより、汗中コルチゾールも血中と同様の日内変動を示すことが示唆された。この実験は当初最終年度に実施を予定していたが、新規汗採取法の確立により前倒しで実施することができた。一方、定量したコルチゾール濃度が想定より1/10程度低かったため、センサ開発においては当初想定していた非標識検出法に加え、今後は酵素標識法も併せて検討することにした。 ②高感度・高選択的検出法の確立 想定しているセンサは抗体固定化作用極と参照電極から構成され、コルチゾールが捕捉されると作用極の電気二重層容量、電位、あるいは電流が変化するものである。これらの測定の高感度化には、安定した参照電極(測定基準となる電位を示す電極)が必要である。そこで当初の予定から前倒しし、印刷法で作製可能な、汗中でも安定な電位を示す参照電極を開発した。参照電極として用いるAg/AgCl電極の電位は、電極が触れる溶液、すなわち汗に含まれる塩素イオン濃度に依存する。前年度確立した汗採取法を用いると、生理食塩水中の塩素イオン濃度は汗採取中に約10 mM増加する(実測結果)。開発した参照電極は、Ag/AgCl電極表面に飽和KCl電解質層を積層し、全体を絶縁膜被覆した構造を有する(液絡で外部液と接続)。これらはスクリーン印刷法で作製可能であり、またその安定性は市販Ag/AgCl参照電極と同等であった。以上より、安定した電気化学計測に必要な印刷参照電極が確立できた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで2年間の研究で、作用極と高安定参照電極のスクリーン印刷法による作製法、及び物理吸着法やカルボキシ修飾ポリマーを下地とした作用極への抗体固定化法は確立できた。また、運動などの発汗誘導不要でいつでも汗成分を採取可能な世界初の汗採取技術を確立し、目的とするコルチゾールの汗中濃度の日内変動も把握可能になった。これは当初の予定を大幅に進める成果であり、汗中コルチゾールの挙動をより定量的に調べながら、必要とされるセンサの仕様を確定する準備ができた。今年度は以下2点に注力する。 ①汗中コルチゾール定量実験の継続 既に日内変動の挙動が研究されている唾液中コルチゾールと比較しながら、汗中コルチゾールの日内変動を引き続き調べる。学内における被験者試験の承認は取得済みである(承認番号 第2019-413号)。 ②コルチゾールセンサの性能評価 非標識型に加え標識型コルチゾールセンサも検討し、両者を比較する。標識型には置換法を検討する。具体的には、電極上の抗体にはあらかじめ酵素標識コルチゾールを捕捉させておき、汗中コルチゾールが来ると標識コルチゾールが外れて汗中コルチゾールが捕捉される(置換反応)。この時、外れた、あるいは残った標識酵素の活性を計測し汗中コルチゾールを検出する。汗を滴下するだけで検出できる、という点で、非標識法で実現したい目標からは外れていない。置換反応は汗中と酵素標識コルチゾールの交差性で決まるため、センサ感度に対する標識コルチゾールの構造の影響を検討する。①での定量結果を踏まえながら非標識法および標識法の感度を平面電極で評価し、その後にナノ空間での評価を進める。
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