2019 Fiscal Year Research-status Report
貴金属表面上における小さなフラーレンの重合体形成過程の解明と構造変化誘起の試み
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18K04936
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
黒川 修 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90303859)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フラーレン / 走査トンネル顕微鏡 / 小さなフラーレン |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の方法では,炭素プラズマ照射後,直径0.5nm程度の粒状の構造が1次元配列した構造が形成される.我々はこの構造を超高真空中で最大250℃まで加熱しSTM(走査トンネル顕微鏡)観察を試みた.その結果,100℃程度の加熱により粒状構造の1次元鎖はアイランド状に再配列すること,アイランド内でも粒状の構造は保たれているが,粒状構造の配列は比較的ランダムであること.温度をさらに上げると,表面上の粒状構造の密度が低下することが確かめられた.このことは,1次元鎖の状態が必ずしも安定な構造ではなく,生成プロセスに関連して実現している構造であることを示していると考えられる. プラズマ中にて炭素5員輪が形成されやすく,これがC20フラーレンの生成に関連しているとの理論的な研究がある.我々のアークプラズマガン(APG)を用いた手法においてもプラズマが生成している.APGによる炭素蒸着条件を変更し,生成する構造に変化があるかを検討した.具体的には蒸着基板であるAg(111)面にバイアス電圧を印可しそれぞれの表面でのSTM観察を行った.実験の結果,APGでは電子の割合が炭素イオンに対して圧倒的に優勢であることが分かった.また-10V以上の負電圧を印可した場合には蒸着時に電流がほぼ流れないことから電子の運動エネルギーがおおよそ10eVであると考えられる.この条件下での蒸着後の表面のSTM観察の結果,通常の蒸着と同様に粒状構造の1次元鎖が形成していることが確かめられた.従って,電子の存在は構造形成にそれほど決定的な役割を果たしていないものと考えられる.また形成される1次元鎖は通常の条件より若干長い傾向がみられた.すでに提案のとおり,我々はAPGによって発生するC+のAg表面へのsubplantaionが形成に関わっているものと推測している.今後はより高い加速電圧での研究を試みる必要があると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Ex-situでの赤外分光の結果が必ずしも解釈が容易でないことが明らかになったため,主に超高真空中でのSTM観察とSTS測定,それに電子状態計算の結果を併用することで構造の同定を行う方針とした.しかしながら,我々の炭素ナノ構造は表面での拡散が比較的早く,安定したSTS測定が困難である.この点,安定したSTS測定が可能になるようSTMの制御装置の改良等を試みており,このことから研究に時間を要している状況である.構造の正確な同定は本研究の最終目的である2次元重合体等の生成を行う際の実験条件の検討に必須であるため,現在構造同定の方に力を入れている.このため,全体としては少し進捗が遅れている. 一方で,最終目的である炭素ナノ構造の配列の制御にむけて,2次元重合体と解釈できる構造が形成の条件によってはまれに形成されることを見出しており,最終的な目的の達成には問題がないものと判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
1次元重合構造からの異なる構造へ変形は本研究の大きな目標の一つであるが,この点,「現在の進捗状況」で述べたように,バイアス電圧印可蒸着後の試料に一部,重合鎖間距離が,2次元重合体における粒子間距離に相当するものがあることを見出している.現在取り組んでいる構造の正確な同定とともに,本年度は予定通り電子照射による構造変形誘起の実験を試みる.また,試料バイアス電圧を大きく変化させた場合に形成される構造の観察も試みる(今年度の実験により生成される構造に弱いバイアス電圧依存性が見られたため).またこれまで第一原理計算によるいくつかの候補構造の安定性の評価を進めてきたが,今年度は分子動力学計算による生成過程の考察を試みたいと考えている.これにはAg-C間ポテンシャルをある程度正確に知る必要があり,現在この方策に関していくつか検討を行っている.この問題を解決し,シミュレーションの側から炭素ナノ構造の生成メカニズムを明らかにすることを試みる.
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Causes of Carryover |
我々の提案している構造は前例が無いものであるため,構造変更の研究・実験の前に確実な構造同定が必要である.他頁で述べたようにこの点ex-situでの分光学的計測手法の再現性が悪く,in-situでの電子状態計測に頼らざるを得ない状況である.このことから研究に時間を要しており,予定している電子照射装置の導入を見合わせている状況である(照射条件を絞り込むためには構造に関する正確な情報が欲しいため).なるべく早急に導入を行い実験を進める予定である.
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