2018 Fiscal Year Research-status Report
酸化物界面における強誘電性揺らぎによる超伝導特性への影響
Project/Area Number |
18K04940
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
堀場 律子 (江口律子) 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 助教 (50415098)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 酸化物薄膜界面 / 超伝導 / 強誘電性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、強誘電相近傍における超伝導の発現の有無と超伝導特性への影響を調べることを目的としている。具体的には、酸化物薄膜界面における物性を研究対象とし、酸化物薄膜界面に関する研究の中でも興味深いトピックスのひとつであるLaAlO3/SrTiO3界面における金属的伝導や超伝導を軸として研究を遂行する。 本年度はこの系において、強誘電相に極めて近い物質であり量子常誘電体として知られるSrTiO3を、強誘電相転移を示すCaドープSrTiO3に置き変えた試料を作製し、LaAlO3/CaドープSrTiO3界面の二次元超伝導層に発現する金属伝導や超伝導に対する強誘電性揺らぎの効果を検証した。 CaドープSrTiO3は市販の基板を使用した。CaxSr1-xTiO3についてはCaドープ量が0.002 < x < 0.02の非常に少量の範囲内で強誘電相転移を示すため、強誘電相に転移するキュリー温度が異なる4種のCaドープ量の基板を使用した。それらの基板上に10ユニットセルのLaAlO3薄膜をパルスレーザー堆積法により成膜した。また底面には電界効果による伝導特性の変調を行うためにゲート電極を付けた。界面での伝導を測定する前に、基板の強誘電相転移の確認やキャパシタンス測定などを行った。各基板のキュリー温度は過去に報告されているCaドープ量に対するキュリー温度とほぼ一致していた。またキャパシタンス測定より、電界効果によって蓄積できるキャリア(電子)量は同じ電圧においてSrTiO3に対して2から3倍程度多くなることを確認した。 LaAlO3/Sr1-xCaxTiO3界面における1.5Kまでの伝導度測定では、x=0.005と0.01の試料で低温までの金属的伝導を観測することに成功した。またさらに低温にしたところ、超伝導転移を観測することができた。最大転移温度はxによって異なる結果となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、CaxSr1-xTiO3基板を使ってLaAlO3/CaxSr1-xTiO3試料を作製すること、基本的な物性測定(CaxSr1-xTiO3基板の強誘電特性やLaAlO3/CaxSr1-xTiO3界面の伝導特性)を確認することである。 標準的なLaAlO3/SrTiO3試料にならい、基板をSrTiO3からCaドープSrTiO3に変更した新規試料LaAlO3/CaxSr1-xTiO3を作製することに成功した。当初の予定通り、強誘電相転移を示すCaドープ量の範囲内でCaxSr1-xTiO3基板を数種類準備し、最終的に4種類のxに対して試料を作製した。Caドープ量が一番多い試料では金属伝導が観測されなかった。これはCaドープ量が多くなるとCa分布の不均一性が大きくなり界面での金属伝導を妨げている可能性が考えられる。これについては同様の試料作製を3回行い確認を行った。今年度は金属的伝導を示した試料のみに注目し、極低温までの測定を行って、二つの試料に対して超伝導転移を確認することに成功した。同じ試料に対して異なる装置で測定したところ転移温度に違いが出ているので、現在再測定を進めている。試料によっては、1回のみの試料作製で伝導度の測定が終了しているものがあるため、同じxに対して複数の試料を作製し再現性の確認を行うことが必要である。 電界効果による金属的伝導特性と超伝導転移温度の変調にも成功した。超伝導特性の変調は標準的なLaAlO3/SrTiO3試料でも観測されており、常伝導状態の伝導度に対して超伝導転移温度をプロットするとドーム型の変化を示すことが確認された。LaAlO3/CaxSr1-xTiO3の新規試料において、金属伝導、超伝導転移、電界効果による超伝導特性の変調を確認することができたため、本年度の研究はおおむね予定通り進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、まず本年度作製した既存の試料に対して超伝導転移を再測定し転移温度を確定する。また同じxについて複数試料を作製し、再現性を確認する。今年度の研究において超伝導転移を観測することはできたが、超伝導特性に対して強誘電相転移を示しているであろうCaxSr1-xTiO3基板からの影響をまだ議論できていない。超伝導に寄与する界面の電子が強誘電相の影響を受けているのかどうかは、バルクのCaxSr1-xTiO3-dで報告されているように、キュリー温度付近で電気抵抗の金属的伝導特性の中に小さな異常が見られることを確認する必要がある。今後、常伝導状態の電気抵抗を詳細に考察することが課題の一つである。また標準的なLaAlO3/SrTiO3試料との比較を詳細に行うことも重要な課題である。LaAlO3/CaxSr1-xTiO3界面の磁気抵抗などの測定を行って伝導特性を詳細に調べ、本研究の目的を達成すべく議論を進める。
|
Causes of Carryover |
国際会議出席に関する旅費として使用する予定であったが、最終的な旅費の算出の際に差分が生じたため、次年度使用額(24,000円)が生じた。翌年度分として消耗品の購入に充てる予定である。
|
Remarks |
[記事] 江口律子,「子連れ留学奮闘記:ジュネーブでの研究生活」, 日本物理学会誌 2018年第9号, 668-669.
|
Research Products
(5 results)