2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K04947
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
池浦 広美 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90357319)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機半導体 / ドーピング / 放射光 / 電子状態 / X線吸収分光 / 電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、有機半導体の低い導電率を改善し、高機能な有機デバイスを作製するためのドーピング手法の一つとして、低次元材料をはじめ、単一分子鎖にも適応可能な光酸化ドーピング手法の構築とメカニズムの解明を目的としている。光ドーピング過程においては、光照射による電荷移動だけではなく、複雑な光化学反応や、光触媒反応のような分解反応を生じるため、新たな計測手法の開発や取得したデータの解析技術の高度化が望まれる。 本年度は、ポリアセチレン高分子の側鎖に硫化メチル基が化学修飾されたPATAC-Me [poly(bismethylthioacetylene)] 塗布膜をシリコン基板上にドロップキャスト法で作製し、大気中で光照射を行い、光酸化ドーピングを行った。高エネルギー加速器研究機構、物質構造科学研究所、放射光施設のビームタイムを利用して、得られた試料の光ドーピング前後の電子状態測定を行い、以下の成果を得た。 1.有機半導体の電子状態密度には伝導帯を形成する非局在したπ電子の成分だけではなく、局在したσ電子の成分が重なり、伝導にかかわる成分を実験的に見積もることは難しい。そこで、申請者が発案した共鳴オージェ電子分光(RAS)法による伝導帯状態密度計測を行い、PATAC-Meの光ドーピング前後のRASスペクトルを測定し、非局在化した伝導性の成分だけを選別したスペクトルの取得に成功した。 2. 光酸化ドーピングを行うための新たな候補として、塩化アルミニウムフタロシアニンの金属-軸配位子オリゴマー鎖の電子状態について測定を行った。X線吸収スペクトルにおいて内殻に束縛された励起子と伝導帯間でピーク分裂することが分かった。分裂幅は約1eVで内殻励起子生成エネルギーに相当し、伝導帯の観測からオリゴマー鎖に沿った一次元バンドを形成していることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では絶縁性の試料を扱うため、電子分光計測におけるチャージング現象は避けられない。しかしながら、中和銃を用いた場合、電子による試料の照射損傷の影響を排除できなくなるため、中和銃なしで測定を行う必要がある。光ドーピング前のPATAC-MeのRASスペクトルは励起エネルギーに依存したチャージアップの変化量が小さく、スペクトルの取得、解析に成功、論文投稿準備中である。光ドーピング後のRASスペクトルに関しては、スペクトルの取得には成功したが、励起エネルギーに依存したチャージアップの変化が比較的大きく、また、反応生成物の影響もあり、RASスペクトルが複雑で、反応生成物の分離を検討しつつ、解析を進めている。新たな候補として実験を行った、塩化アルミニウムフタロシアニンの一次元鎖電子状態については測定、解析も順調に進み、投稿論文が出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、RASスペクトルの励起X線エネルギー依存性測定することで、非局在化した伝導性の成分だけを選別したスペクトルが測定できることが確認できた。引き続き、光ドーピング後の電子状態について解析を進め、光ドーピング機構についての解明を目指す。さらに、X線吸収スペクトルにおいて、内殻に束縛された励起子と伝導帯間でピーク分裂が起こるという新たな知見が得られたことから、一次元鎖の電子状態について分光研究を進めていく。また、研究対象であった、アルキル基が化学修飾されたポリアセチレン化合物が薬品会社で取り扱い中止となり、前年度に継続して、代替材料として一次元伝導性をもつ有機半導体の探索を進めて行く。
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Causes of Carryover |
本年度は、査定額の減額により、消耗品材料などの購入費用が不足したが、前年度の設備費見直しによる繰越金で補充して購入、残額は次年度に繰り越した。次年度は、新たな材料購入や論文投稿料などで、購入費用の不足が見込まれるが、繰越金を補填して使用する。繰越額160万円は、具体的には、膜厚計のレンタル料30万円(15万円×2回)、著名誌等への投稿料、論文校閲60万円、学会参加費、旅費40万円、材料購入費補充30万円として使用する予定である。
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