2018 Fiscal Year Research-status Report
大気ERDAを用いたセラミック水素吸蔵材の原理解明
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18K04948
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Research Institution | Wakasa wan Energy Research Center |
Principal Investigator |
鈴木 耕拓 公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 主査研究員 (40705612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土屋 文 名城大学, 理工学部, 教授 (90302215)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水素 / セラミック / イオンビーム分析 / 大気中分析 / ERDA |
Outline of Annual Research Achievements |
リチウムジルコネートなどのセラミックは大気中の水蒸気を吸収し、摂氏100~200度に加熱すると水蒸気と共に水素ガスが発生するという特徴を持っている。これは安価な水素製造に適応できる可能性を秘める。しかしながら、どのように水を吸収し内部に保存するのか、また摂氏100度程度のそれほど高くない温度領域で水蒸気と共に水素ガスが発生するのかといったメカニズムは解明されていない。本研究において主としてイオンビーム分析を用いてセラミック中の水素を直接測定することにより、空間分布・時間変化から水素発生メカニズムを検証する。 イオンビーム分析である反跳粒子検出法(ERDA)は水素を直接測定するため、定量分析や表面付近の分布測定に最適な手法である。さらにほぼ非破壊であるため、試料の再利用可能なことも重要な利点である。しかし通常は真空中で行われる分析手法である。水を吸収したセラミックを真空中に保管すると水(または水素)を放出してしまうため、若狭湾エネルギー研究センターで開発した大気中で水素のイオンビーム分析を行うことができる装置を用いる。これまでに最適なビーム照射角や散乱角の決定、およびセラミックに適した試料台の作製を行った。 作製条件の異なるセラミック試料に対して、水蒸気を吸収させた時の時間と重量変化の関係を測定した。また水吸収が緩やかに行われることから、定期的に大気中の水素イオンビーム分析を行い、重量変化と共に水素量も変化していることが確認できた。しかしながら測定した水素量から計算すると、セラミックの重量増加分がすべて水で説明することができないことが分かった。今後は水素以外の元素についても定量分析することで吸収された元素や分子状態を解明していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はセラミック水素吸蔵材における水吸収および水素ガス発生について、イオンビーム分析を主として水素の振舞いを測定することにより、メカニズムの解明を試みるものである。3年計画のうち、初年度に大気中イオンビームによる水素定量分析と水吸収・水素放出のための試料周辺の装置開発、2年目に水吸収・水素発生の時間的変動の測定および空間的分布の導出、最終年度にセラミック試料作製条件の変更などによる水素発生量の違いを考察する予定であった。 初年度においては、セラミック試料に対して水吸収と重量増加の関係を測定しながら、イオンビーム分析を用いて水素定量分析を行った。セラミックの重量が増加するのに対して、イオンビーム分析で検出した水素量も増加していくのが分かった。また、真空状態にしたり乾燥状態にしたりといった周辺環境を変更する試料チャンバーを整えることができた。初年度の計画はほぼ遂行できたため、順調に進呈していると評価する。 ただ、初年度の結果から、セラミックは水の吸収だけでは説明できないほど重量が増加しており、水素分析を主体とする当初の研究計画では研究目的の達成が困難であると考えられる。そこで当初計画の2年目以降は水素以外の元素の振舞いにも注目するよう変更する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では大気中イオンビームを用いた水素分析を行うことが主であった。しかしながらセラミック重量変化は水吸収による増加量よりも大きな変動が見られた。セラミックは大気環境で保管しているため、水蒸気の他、窒素・酸素・アルゴン・二酸化炭素などの成分が吸収されていることが予想される。水吸収・水素発生メカニズムに、これら元素は密接に関係していると考えられるため、各元素の定量分析が非常に重要である。 多元素の定量分析として、イオンビーム分析の一種である飛行時間差測定反跳粒子検出法(TOF-ERDA)を用いることが有効であると考えられる。本手法は粒子の速度とエネルギーを同時に測定することにより、質量分離を行うことができるため、多種類の元素を同時にエネルギー分解能良く測定可能である。しかし、真空中の測定であることが難点であるが、1日程度の真空保管であれば、セラミックの重量減少は微量であることが分かっている。ただし、真空中では最表面における水素量については評価が難しいことから、セラミック内部における元素分布を測定することで吸収元素の特定を行うことが可能と考えられる。TOF-ERDAは表面から深さ方向の元素分布を測定できるため、ビームエネルギーを高くすれば内部の分布も測定可能である。 これらのことから2年目以降はセラミックに吸収された元素の特定および定量を行う。並行して、通常の大気周辺環境とは違う状況(湿度や大気組成割合の変更)にセラミック試料を保管することにより、重量増加を観測する。さらに大気中ERDAを用いて水素量と重量変化の関係も測定していく。
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Causes of Carryover |
真空環境や乾燥などの雰囲気制御を行うための試料チャンバーが、当初予定よりも安く整備できたため、次年度に繰り越す。今後の研究方策で述べたように当初の予定になかったTOF-ERDAによる元素分析を行うこととした。この分析では蛍光板や炭素薄膜などの消耗品が必要であるため、これらに充当する予定である。
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Research Products
(1 results)