2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K04986
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡本 隆之 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別嘱託研究員 (40185476)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非弾性光散乱 / ラマン散乱 / 表面プラズモン共鳴 / 金ナノロッド / セレン化亜鉛 |
Outline of Annual Research Achievements |
協力研究者より提供を受けた試料と用いて実験を行った。この試料はセレン化亜鉛基板上に長さ2 μm、幅0.4 μm、厚さ42 nmの金ナノロッドを5 μmの間隔に正方格子状 に配置したものであり、電子ビーム描画とリフトオフ過程により作製したものである。本ナノロッドに担持される局在表面プラズモンの長軸モードの共鳴周波数は1100 cm^-1である。これまで用いていた波長532 nmおよび波長632.8 nmのレーザーに加えて新たに波長1064 nmのレーザーを励起光として非弾性散乱光の観測を試みた。しかし、初期の目的であった背景光を抑えることはできたが、金ナノロッドからの非弾性散乱光は確認できなかった。その理由として、ラマン散乱光の強度は周波数の4乗に比例するため、散乱光強度が非常に低くなっていること、および、この波長領域における検出器の感度が低いことが考えられる。励起光を波長632.8 nmのレーザーに戻し、レーザーの自然放出光を除くためにバンドパスフィルタを用いて光学系を再構築した。背景光に注意を払い実験を行った。得られた背景光は1700 cm^-1だけシフトした位置になだらかなピークを有していた。しかし、金ナノロッドの表面プラズモンモードによる1100 cm^-1のピークの重畳は観測できなかった。背景光のピークのシフト波数は励起光の波長を532 nmに変えてもほとんど変化しなかった。このことからこの背景光は蛍光でないことが分かった。さらに、文献を調査した結果、この金ナノロッドからの広帯域の非弾性散乱光の主因が金属の電子-正孔対の生成による電子ラマン散乱光であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
金ナノロッドからの広帯域の非弾性散乱光が観測できた。この非弾性散乱光は表面プラズモンモードによるものではなく、金属の電子-正孔対の生成による電子ラマン散乱光であることが分かった。当初の目的は、金ナノロッドの表面プラズモンモードによる非弾性散乱光に関して何らかの信号を得ることであったが、本年度までの実験では得られなかった。信号を得るための工夫としては、励起光の波長の変更や、顕微ラマン分光システムを使用したが、残念ながら結果は芳しくはなかった。ただし、表面プラズモンモードによる非弾性散乱光が発生するかどうかは理論的に保証されているものではない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き金ナノロッドの表面プラズモンモードによる非弾性散乱光の検出を試みる。当初期待していた表面プラズモンモードによる非弾性散乱光のピークは1100 cm^-1に期待される。一方で、金の電子-正孔対生成による電子ラマン散乱光のピークは1700 cm^-1付近に位置する。両ピークは共に広帯域であり、また、前者の強度は後者と比較してかなり小さいと考えられる。非弾性散乱光スペクトルから前者のピークのみを分離する必要がある。その方法として、スペクトルの入射偏光依存性の利用を試みる。これまでも偏光依存性は測定しているが、偏光による差異は観測できなかった。その理由の1つとして、得られたスペクトルの信号雑音比が小さかったことが挙げられる。そこで、これまで用いてきたファイバマルチチャネル検出器に替えて、EMCCDを検出器とした光学系を新たに構築し、より信号雑音比の高いスペクトルの取得を試みる。この実験に加えて、既に多くの観測報告のある半導体へテロ界面に存在する2次元電子ガス(2DEG: 2 Dimensional Electron Gas)の表面プラズモン モードによる非弾性散乱光の検出を目的とした実験を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由は、目的としていた金ナノロッドの表面プラズモンによる非弾性散乱光が観測できなかったことにより、成果発表のための旅費と論文投稿のための費用の支出がなかったこと。それに加えて、コロナ禍により実験の進捗が遅れたため、消耗品の購入が少なかったためである。繰り越した予算は上記の旅費、論文投稿のための費用に充当する。さらに、新たに光学系を組むための物品費として充当する。また、物品費は2DEGデバイスの購入および加工に必要な費用にも充てる。
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