2018 Fiscal Year Research-status Report
C60イオンに対する阻止能は炭素イオンの60倍か?~二次粒子測定によるアプローチ
Project/Area Number |
18K05005
|
Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
鳴海 一雅 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線高度利用施設部, 次長(定常) (90354927)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 阻止能 / C60イオン / スパッタリング / 二次電子放出 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の重イオンをはるかに超える高密度エネルギー付与のツールとしてビーム利用の拡大が期待されるフラーレンイオンについて、「C60イオンに対する固体標的の阻止能が、同じ速度の炭素イオンに対する阻止能の60倍になるのか?」という疑問に答えることを全体構想とする。平成30年度は、核的阻止能と密接に関係するスパッタリング収量を測定するための水晶振動子微量天秤法を用いた測定システムを構築し、動作の確認を兼ねた予備実験を行った。量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(TIARA)の400kVイオン注入装置を用い、120 keVのC60イオンを水晶振動子上の金(Au)薄膜に照射して、水晶振動子の周波数変化を測定した。その結果、C60イオンの照射によって水晶振動子の周波数が増大する変化、即ち、C60イオンがスパッタリングすることによるAu薄膜の質量の減少が観察でき、スパッタリング収量測定システムが正常に動作することを確認した。次に、Auのスパッタリング収量に相当する入射C60イオン1個当たりの周波数変化についてそのエネルギー依存性を、60~1080 keVの範囲で測定した。周波数変化をスパッタリング収量に変換する較正方法が確立できていないことからスパッタリング収量での比較はできないものの、100~200 keV程度にピークを持ち、研究代表者が以前測定したC60イオンによるシリコン(Si)のスパッタリング収量と似たエネルギー依存性があることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水晶振動子微量天秤法を用いたスパッタリング収量測定システムを構築し、正常に動作することを確認した。また、C60イオンのエネルギー60~1080 keVの範囲で周波数変化のエネルギー依存性を測定した。しかし、周波数変化をスパッタリング収量に変換する較正方法が確立できていない。このようにスパッタリング収量測定のソフト面で検討の余地があることから、当初の研究実施計画よりも若干遅れているものと判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所TIARAの3MVタンデム加速器も用いて、C60イオン及びそれと同じ速度のCイオン、それぞれの照射によるAuのスパッタリング収量についてその速度依存性を明らかにし、核的阻止能の比を評価する。そのために、スパッタリング収量の較正方法を早い段階で確立させる。さらに炭素(C)のスパッタリング収量の測定に着手する。 並行して、電子的阻止能の比を評価するための二次電子収量の測定を本格化させる。まず、上半期は二次電子収量の測定に必要なマイクロチャンネルプレート(MCP、二次電子検出に用いる)移動機構を作製する。完成後、TIARAの400kVイオン注入装置、3MVタンデム加速器を用いた、C60イオン及びCイオン衝撃により炭素薄膜標的から放出される二次電子収量の測定に取りかかる。
|
Causes of Carryover |
水晶振動子微量天秤法を用いたスパッタリング収量測定システムを構築する際に、既存のX-ステージ及び冷却水循環装置を利用できることが判明した。その分の予算を節約できたことから次年度使用額が生じた。 この次年度使用額と次年度の支払請求額を合わせた使用計画は以下の通りである。設備備品費として二次電子収量の測定に必要なMCP移動機構の作製、消耗品費としてスパッタリング収量の測定に必要な水晶振動子の購入、さらに国内学会及び国際会議に参加するための旅費・参加費に使用する。MCP移動機構の作製は当初の計画にはなかったものである。本研究の申請以降、C60イオンを含むフラーレンイオンが利用できるタンデム加速器のビームラインの利用計画に変更が生じ、この変更を受けて申請段階とは異なる散乱槽を利用せざるを得なくなった。この散乱槽では既存のMCP移動機構が使えないため、新たにMCP移動機構を作製する必要が生じた。
|