2019 Fiscal Year Research-status Report
ダイレクト・アブイニシオMD法による微視的溶媒和クラスター反応の実時間追尾
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18K05021
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田地川 浩人 北海道大学, 工学研究院, 助教 (10207045)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プロトン移動 / 光イオン化 / 分子設計 / 反応設計 / DNA損傷 / 電子脱離 / 光劣化 / 放射性セシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
微視的溶媒和クラスターは、少数の溶媒分子によって取り囲まれた分子からできるクラスターであり、溶質の周りの溶媒を部分的に切り出したナノスケールの溶液といえる。最近、クラスターを任意に生成する実験により、反応ダイナミクスの解明が可能となってきた。これに対し、溶媒和クラスターに関する理論的なアプローチは極めて少ない。本研究課題では、ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を、微視的溶媒和クラスター内での反応ダイナミクスの理論解明に応用した。本年度は、以下の2テーマについて詳細な計算を行った。 (1) 微視的溶媒和された放射性セシウムがセメントに効率良く取り込まれるメカニズムを解明 東日本大震災による事故により、福島第一原発から大量の放射性セシウムが放出され、現在もなお、土壌やプラントを汚染している。最近の実験により、セメントの主成分であるケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)が、セシウムを効率的に保持することが明らかになった。しかしながら、保持のメカニズムは、全くわかってなかった。本研究では、放射性セシウムとC-S-H表面との相互作用を理論的に研究し、C-S-Hが効率よく放射性セシウムを取り込むメカニズムを解明した。 (2) DNA2重らせんモデル分子への放射線照射効果の理論解明 DNAへ放射線照射すると、(a) 水素結合に沿ってプロトン移動(PT)、または(b)リング間結合を起こし、DNA損傷が生じることが知られている。しかしながら、メカニズムについては、ほんどわかっていない。本研究では、最も単純な2重水素結合系である水和ギ酸ダイマーをDNAモデル分子として、光によって誘起される反応ダイナミクスを研究した。その結果、イオン化では(a)、(b)の両方の競争反応が進行すること、および電子付加では、PTのみが起こることを明らかかにした。さらに、反応経路(a)、(b)の選択制の原因を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の当初の目標では、(1)ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を比較的大きいクラスター反応系へ拡張すること、および、(2)作成したプログラムをテスト計算すること、に関する2つ課題が、2019年度の主目標であったが、課題(1)、および(2)は終了し、すでに、2020年度の目標である反応系への応用が、スタートしている。 特に、(a) 「微視的アンモニアクラスター光反応ダイナミクス」について研究を行い、アメリカ化学会物理化学誌(J. Phys. Chem. A)への公表を行った[H. Tachikawa: Intramolecular Reactions in Ionized Ammonia Clusters: A Direct Ab Initio Molecular Dynamics Study, J. Phys. Chem. A, 124, 1903-1910 (2020).]。 また、 (b) 「微視的溶媒和された放射性セシウムとセメント表面の相互作用の理論解明」の研究が順調に進行し、アメリカ化学会物理化学誌(J. Phys. Chem. C)への公表を行った[H. Tachikawa et al., Local Structures and Electronic States of C-S-H-Sodium-H2O Interface: NMR and DFT Studies, J. Phys. Chem. C, 124, 5672-5680 (2020)]。 以上のことより、「研究の目的」の達成度として「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究課題として、(1)「SN2反応ダイナミックスへの微視的溶媒和の効果」、および(2)「微視的溶媒和された二酸化炭素(CO2)の光反応の解明」を行う。テーマ(1)の求核的2分子置換反応(SN2反応)は、有機反応の中の基本反応一つである。しかしながら、その動的なメカニズムについて、ほとんどわかっていない。本研究では、ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法により、求核イオンによるSN2反応:X- + CH3Cl (X=ハロゲン、または分子)、および、その溶媒を含む反応X-(H2O)+CH3Clを研究する。解明する点は、「微視的溶媒和(水分子、および水クラスター)の存在は、反応ダイナミクスへどのような影響を及ぼすか。たとえば、反応速度が加速するか、減速するか?(抑制効果)を明らかにし、新たな反応を理論的に予測する。 昨年度、微視的溶媒和された二酸化炭素(CO2)が光反応により活性ラジカルになることを理論的に予測した。具体的には、水分子に微視的溶媒和された二酸化炭素(CO2)が、光照射によって、活性ラジカル(OHCO2 radical)になることを理論計算により明らかにした。本年度は、この研究を発展させ、この活性ラジカルの反応性、および、微視的溶媒和による安定化のメカニズムを解明する。
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Causes of Carryover |
前年度の未使用額は、計算機購入が遅れているため生じた。これは、DELL社の製品販売の遅延によるものである。また、2020年3月の国際会議がコロナウイルスにより、中止になったことにも起因する。本年度は、すみやかに計算機を購入する予定である。また、本研究で得られた成果を、国内学会、および国際会議で積極的に公表する予定である。
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