2018 Fiscal Year Research-status Report
ナノ分子固体における光誘起機能発現の実時間・実空間シミュレーション
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18K05022
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菅野 学 東北大学, 理学研究科, 助教 (30598090)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 理論化学 / 光化学 / 分子性固体 / 分子マシン / ナノカーボン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、気相あるいは溶液中の分子系が中心だった従来の光化学反応の実時間・実空間ダイナミクス研究の枠を越え、ナノ分子が凝集した超多次元系である固体中の分子運動や化学反応を光で制御する手法を開拓する。固体を形成するナノ分子が光照射下で起こす内部運動や化学反応の実時間描像を実験的測定のみから描くことは困難であり、理論計算(分子動力学シミュレーション)によるアプローチが不可欠である。具体的な対象の1つとして、結晶性分子マシンであり、新規な光学材料の期待が高まる分子ジャイロスコープの光駆動内部回転シミュレーションを行う。2つ目として、近赤外光による加熱と崩壊を経てカーボンナノチューブや多層フラーレンへと成長することが報告された粉末C60(OH)24の反応過程を追跡する。さらに、可視・紫外光により電子励起したC60(OH)24を含む種々のフラーレン誘導体の新たな光反応・光機能の可能性を探索する。
平成30年度は、電子励起したフラーレン誘導体のシミュレーションを見据えて、大きな分子にも適用できる非断熱動力学法を開発した。非断熱分子動力学の代表的な計算法であるsurface hopping法に1次元非断熱問題の完全解であるZhu-Nakamura理論を多次元に拡張して取り入れた方法が提案されたが、この方法は遷移確率の評価に必要な透熱ポテンシャル勾配を断熱勾配の線形補間から見積もっており、断熱ポテンシャルが滑らかで時間ステップが小さいときには誤った結果を与えてしまう。そこで、我々は透熱勾配を断熱勾配の時間微分に基づいて推定する改良法を開発した。光励起ピラジンの超高速無輻射失活に適用すると、従来法は時間ステップを小さくするほど励起寿命を著しく過小評価したのに対し、改良法は時間ステップに依らず実験値をほぼ再現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の遂行に必要な大規模系に適した非断熱分子動力学計算法の開発がおおむね達成できたため。「研究実績の概要」に記述した成果を論文として国際誌に発表し、さらに複数の国内学会や海外研究機関において広く報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、チオフェン回転子を持つ結晶性分子ジャイロスコープの分子間相関の評価と光駆動内部回転シミュレーションを行う。密度汎関数法に近い精度で高速計算が可能な密度汎関数強束縛(DFTB)法を用いて回転子の配向が異なる複数の安定構造を探索・比較し、強い双極子-双極子相互作用の要因とそれによる安定化を精査する。また、熱運動のナノ秒分子動力学シミュレーションを実行し、室温における回転頻度を算出する。次に、遠赤外光(THz波)を照射した場合の計算を行い、熱運動のみの場合と比較して回転頻度がどの程度増加するかを検証する。さらに、分子マシンの代表格である光駆動分子モーターにまで研究対象を拡大し、開発した大規模系に有効なsurface hopping分子動力学法を用いて回転の初期段階である光異性化の機構の理解を試みる。
並行して、C60(OH)24の温度上昇(振動励起)・崩壊・成長機構を解明する。まずは粉末を模したC60(OH)24の巨大クラスターに近赤外レーザーを照射した場合のDFTB分子動力学シミュレーションを行う。光から得るエネルギーがどのように隣接分子へ流れ込み、全体が加熱されるかを調査する。次に、高温に達したC60(OH)24クラスターの崩壊過程を解析する。一連の過程におけるヒドロキシ基に特有の役割を調べ、生成物(カーボンナノチューブや多層フラーレン)の選択性を決める主要な因子(例えばクラスターサイズや衝突時の温度など)を特定する。
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Causes of Carryover |
本年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。次年度請求額と合わせて次年度に計画している研究の遂行に使用する。特に、(1) これまでの研究成果を発表するための論文掲載料、(2) 数値シミュレーションに使用するワークステーションの保守(ハードディスクやメモリの購入)、(3) 関連書籍やソフトウェアの購入、などに充てる予定である。
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Research Products
(5 results)