2020 Fiscal Year Research-status Report
マグネシウムを含む直線炭素鎖分子の電子遷移分光研究による星間未同定吸収線の解明
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18K05045
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
荒木 光典 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 研究員 (90453604)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 広帯域キャビティー増幅吸収分光 / 高次倍音 / 振動遷移 / 酢酸メチル / 酢酸エチル |
Outline of Annual Research Achievements |
原始地球最初の有機物の起源を宇宙に見出すため、分子雲の中に観測される大型有機物の吸収線の同定を目指している。その同定には、分子雲の中の有機物を実験室で放電により人工的に生成すること、そしてそれらを可視光領域で精密に測定をすることが必須である。そこで、それら有機物を放電を用いたスペースシミュレーターで生成し、広帯域キャビティー増幅吸収分光装置を用いて測定する。
そのため、これまで日本国内での開発実績のなかった広帯域キャビティー増幅吸収分光装置の開発を行ってきた。組み立てが完了した同装置を用い、そのセル内に酢酸メチルや酢酸エチルを導入して、そのCH伸縮振動の第三・第四倍音の吸収スペクトルを測定した。これらは、900nm帯および700nm帯に現れる振動回線遷移の禁制遷移である。一般に赤外で測定される基音と呼ばれる3000波数の許容遷移に比べて、その遷移強度は倍音で1/10である。第3倍音なら1/1000であり、第4倍音に至っては1/10000である。測定の結果、第3倍音ではS/N=50、第4倍音ではS/N=10が得られた。これらの分子において両遷移の検出は初めてとなる。これらの検出ができたことにより、高感度測定が可能であることが実証でき、スペースシミレーター内に生成する微量の直線炭素鎖分子が検出できることがわかった。また、分解能も0.06nmに達し、用いたグレーティング分光器の性能が十分に発揮された。
この装置の特徴は、高感度や高分解能だけでなく、広範囲高速測定ができる点にもある。上記の測定ではスペクトルを50nmの帯域にわたって測定し、上記のS/Nでスペクトルを得た。測定時間は僅か100秒である。得られたバンドは10nm程度の幅を持ち、広帯域を兼ね備えた測定装置ゆえに初めて検出できた。すなわち、本装置は広範囲における高感度・高分解能測定ができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)これまで日本国内で、開発実績のなかった高分解能型の広帯域キャビティー増幅吸収分光装置の構築することに成功した。特に近赤外帯においては、世界的にも前例がすくなかったが、今回以下のスペクトルを得ることができた。 (2)同装置を用い、酢酸メチルと酢酸エチルにおいて、CH伸縮振動の第3・第4倍音の振動遷移吸収スペクトルを測定できた。これらの測定は、これまで液相中では検出例があったが、気相中では前例がなかった。それを今回はじめての検出となった。これらは、それぞれ、900nm帯および700nm帯に現れるため、近赤外帯の遷移である。 (3)通常の赤外帯域の吸収線の1/10000の強度を持つ遷移をS/N=10で検出でき、高感度測定が可能であることが実証できた。分解能も0.06nmに達し、高分解能測定ができた。 (4)酢酸メチルと酢酸エチルに加えて、メタノールの高次倍音の測定にも成功した。この検出はレーザーを用いない測定系における初めての検出であった。これまでは、光音響法による測定例があるにとどまっていた。(5)これらの遷移は半値幅10nmを持つブロードバンドであるが、45nmの広帯域測定により、そのスペクトルの全貌を明らかにすることができた。よって、高感度・高分解能・広帯域がバランスよく実現できることが検証できた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)酢酸メチルと酢酸エチルにおいて、CH伸縮振動の第5倍音の振動遷移吸収スペクトルの測定を行う。この遷移は通常の赤外帯域の吸収線の10万分の1の強度である。これをS/N=3以上での検出を目指す。この遷移は600nm帯の可視光領域に現れるため、星間の未同定吸収線と同じ波長帯域である。ここでの検出は可視光領域で本装置が高感度であることの検証となり、星間未同定吸収線の同定に使用できることの検証ともなる。 (2)更に、ベンゼンでも同振動遷移の第3から第5倍音までの検出を行い、ベンゼン環における振動が検出できることを検証する。 (3)スペースシミュレーターを導入した放電実験を行い、分子雲中に観測される可視光領域の未同定吸収線の同定を行う。 (課題1)以上の研究を行うにあたり、感度のさらなる向上が課題となる。これに対してはレーザーを用いたミラーの光軸調整法を開発することで解決できると考えている。現在、ヘリウムネオンレーザーとそれに対応した光学系が準備できており、光軸調整法を開発中である。 (課題2)また、高い感度は、少ない迷光により達成できることも分かってきた。それを実現するため、光路の随所に遮光を施し検討を行っている。 (課題3)さらに、放電の繰り返し周波数を検討し、本分光手法との連携に必要な測定条件を見つけ出すことも課題である。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により、スペースシミュレーターの導入が遅れた。その一方で、想定を上回り、高次倍音という前例のない測定が実現できたために、その学術的な記録を取るために時間を費やした。
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Remarks |
日本国内のキャビティーリングダウン分光および関連の分光法の活性化を図るため、2019年度に続いて、2020年度も当研究会を実施した。59名の参加者があり、6件の発表が行われた。 一方、「これまでに発見された星間分子リスト」は代表者が20年以上にわたって集計管理しているサイトである。2020年度も継続して管理している。同様の情報は世界的に見て他にドイツのサイトがあるだけである。
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